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ブリング・ミー・ホーム 尋ね人のumisodachiのレビュー・感想・評価

3.9

イ・ヨンエが14年ぶりに映画復帰を果たしたことで話題の作品。6年前に行方不明になった息子を探す母親の物語。

看護師のジョンヨン夫妻は6年前に行方が分からなくなった息子を探し続けていた。しかし、いたずらメールが元で夫は交通事故に遭い急死。すべてを失って憔悴するジョンヨンだったが、「消えた息子ユンスに似ている少年が漁村にいる」という情報を得たため、ひとりで探しに出かける。漁村では怪し気な家族が釣り場を経営していて、そんな少年はいないと口裏を合わせていた。違和感を拭えないジョンヨンは村に一泊することにしたのだが……。

韓国映画らしいスリラーサスペンス!出てくる人間のほとんどがクソで、ジョンヨンの四面楚歌っぷりがすごい。漁村にいる怪しい一家はわかりやすい悪人だし、その中枢には警官がいるという(韓国映画あるあるの)無理ゲーなのだが、そこに至るまでに出てくる人間もまあけっこう酷い。急死する夫と行方不明者捜索を行っている若者以外は全員クソ。そして、それはこの映画が打ち出したいメッセージでもある。

どこからか連れてきた子どもを働き手として酷使し、他の働き手も前科者ばかりという絵に描いたようなブラック職場の釣り場では、日常的に虐待が行われている。この虐待描写が相当キツくて、何度も目を背けたくなった。

枠組みは「行方不明になった息子を見つける」という目的があるのだが、もちろんこの作品はそれだけでは終わらない。膨大な数の子どもたちが消えている中で、自分の子どもだけが見つかればそれでいいという結論に帰結するのは乱暴すぎるからだ。だから、感動の再会!涙!というラストにならないのは明白だった。韓国がそんな低次元の映画を作るはずがない。

息子の情報については冒頭からかなりの伏線が張り巡らされていたのだが、そういう方向で回収するのかとラストの展開には少し驚いた。しかし、やはり安易な感動ものにはしていなかった。子どもを失った多くの親たちの想い、突然家庭を失った多くの子どもたちの想い、彼らに手を差し伸べる人々と搾取する人々の存在。そしてなによりも、膨大な行方不明者たちに対して何の関心も示さない多くの人々の冷酷さ。本作はそれらすべてに焦点を当て、糾弾すべき者を糾弾していた。

ジョンヨンを演じたイ・ヨンエは静かなる怒りを湛える「静」の演技で、スクリーン全体に存在感を示し続けた。無謀にも見える彼女の行動だが、「すべてを失い死すら恐れていない状態」に彼女を据えることによって、説得力を持たせていた。

かなり精神的に疲弊する作品ではあるし、スリラーとしてもけっこう削られるのだが、良い作品。



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