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仮面病棟のsanbonのレビュー・感想・評価

仮面病棟(2020年製作の映画)
3.6
歯切れの悪さが非常に勿体ない。

今作は「屍人荘の殺人」でやらかしちゃった「木村ひさし」らしからぬ、理路整然としたフェアな作品に仕上がっていてちょっと意外だった。

木村ひさしといえば、屍人荘〜のレビューでも触れている通り特殊な癖のある演出を好む監督のイメージがかなり強いのだが、今作においてはそれを封印し、真っ当なミステリ作品として真っ当な仕事っぷりを見せてくれている。

なにより、今作では脚本がしっかりしてるのがいい。

登場人物達の動機や病院にまつわる謎、真犯人の正体などが、きちんと誰でも理解し納得出来るよう、序盤から終盤にかけて整理整頓されたうえで伏線をしっかりと回収してくれる展開は、非常に丁寧かつ親切な作り込みをされておりとても印象が良かった。

それこそ、ミステリのスタンダードである「ノックスの十戒」を全て満たしたような作劇には素直に感激したと同時に、なんでこれと同じ事を屍人荘〜でもやらんかったと肩を落とした程である。(まあ、屍人荘〜はノックスの十戒を破ったところに面白さがあるのだが…てか、屍人荘〜って変換めちゃくちゃめんどくせえ)

ちなみに、ノックスの十戒の概要は以下の通りである(Wikipedia出典)

1.犯人は、物語の当初に登場していなければならない

2.探偵方法に、超自然能力を用いてはならない

3.犯行現場に、秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない(一つ以上、とするのは誤訳)

4.未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない

5.中国人を登場させてはならない

6.探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない

7.変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない

8.探偵は、読者に提示していない手がかりによって解決してはならない

9.サイドキックは、自分の判断を全て読者に知らせねばならない

10.双子・一人二役は、予め読者に知らされなければならない

ただ、今作の難点を挙げるとしたら、"上映時間"だろうか。

とはいえ、114分と平均的な時間ではあるが、今作においてはあと20分は短くても良かったと思う。

何故なら、真犯人が判明した後の展開が結構長いからだ。

視聴者としては、もちろんピエロの正体や動機、病院がひた隠しにしている何かについてを推理しながら観進めていくのだが、実は物語は終盤から方向性を若干変えて展開していく事になる。

それは、物語に深みを与える為にもあった方がいいと思うし、決して蛇足ではないのだが、いかんせん作品に対するモチベーションはその一歩手前までで既に事切れている為、それ以降からラストにつれてはなんとも言えない静かな時間が流れてしまうのだ。

これが、冒頭に述べた歯切れの悪さの原因であり、この時間があるせいでせっかくの秀逸だった病院内でのサスペンスの印象が著しく落ち着いてしまったのである。

となると、これの改善策としてはやはり時間の短縮の他なく、例えばピエロの病院襲撃から解決までをもっとハイテンポにして、過激にサクッとハイテンションに仕上げる事で、真相が語られる段階の時間が咀嚼をしながら余韻に浸れる、丁度いい箸休めの役割を果たしてくれるのではと思った。

それを踏まえて、他の方の多くが「普通だった」と回答している原因は、最後の間延び感が印象操作をしてしまったのではと感じるところもあり、今作は進行からなにからちょっと優等生をし過ぎたのかもしれない。

そう考えると、実に惜しい作品に思えてならなかった。
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