はる

羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来のはるのレビュー・感想・評価

4.2
物語世界などの情報は事前に入れずに「クオリティが高い」という評価だけを聞いていて、昨年の字幕版はスルーしてしまったが、観ていれば『ロング・ウェイ・ノース』『幸福路のチー』と並ぶ好きな作品になっていただろう。ただし、地元ではミニシアターでの上映だったので、今回のシネコンでの鑑賞は、スクリーンサイズ、音響ともにこの作品をより楽しめるものになったのは良かったと思う。

冒頭のシークエンスで早くも唸ることになるし「なるほど、アクションにこだわった作品なのだ」と理解する。と同時にネコの表情や演技の異常なまでの愛らしさに「こういうのが国産と違うところだよな」と感じる。これは全体に通じることなのだけど、この「シリアスなアクションと可愛すぎるギャグのギャップ」を楽しむのも今作の味わいだなと思う。

さてネタバレ。
今作が過去9年ほどの間に発表されてきた連作の前日譚だということは後で知るのだけど、それは観ているときに感じていたことでもある。つまり独特の設定、登場キャラクターの多さに関わらず、それらの説明がかなり省略されているから。ただしそうした部分はほぼ気にならないところで見どころがふんだんにあるので問題ない。
日本人にとっては、アニメーション(ゲーム)による格闘表現は馴染みのあるもので、何と言っても中国的なイメージを採用した『ドラゴンボール』という超有名作がある。だから本場である中国のアニメでこうした質の高い格闘アクションを見せられると、それだけでグッとくる。その他にも日本のアニメーションの歴史を感じさせる描写があり、また実写映画へのオマージュとも言えそうなものもあった。

観ている途中で、その多様な表現、タッチに関しては『スパイダーマン: スパイダーバース』のようでもあるなと感じていたので、あの電車内でのアクションには膝を打ってしまう。その流れでうっかり思いついてしまったのが「ムゲンの属性が「金属」であるのはマーベルのあの人‥」ということ笑。
またあのややクドいほどに繰り返されるシャオヘイの「逃走と捕縛」もラストで昇華されているし、ムゲンとのあの航海もあえて時間をとっていただろう。もちろんその間の多様なアニメーション表現は「むしろそっちが目的なのか」と思えるほどの楽しさがあった。

アニメーションのクオリティは日本の名アニメーターも驚くほどで、物語は普遍性のあるテーマの中でも遊び心に満ちている。エンターテイメントについてとてもよく考えられた今作は「中国産アニメ」という枠に収まらないものだ。何しろこれまでの「中国産アニメ」を知らなかったから、いきなりの登場に驚くよりない。それに大陸の風土や文化はアニメーション世界との親和性が極めて高いと思うし、いずれオリジナリティをより感じさせる作品もできるはずだ。そういう大きな流れの始まりを予感させる良作だった。
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