ワンコ

はるヲうるひとのワンコのレビュー・感想・評価

はるヲうるひと(2020年製作の映画)
5.0
【目を背けて来たこと】

強烈な作品を観た。
生きていくということも考えさせられる。

伊勢志摩の島に、こうした置屋の島があるという話を前に何かで読んだ記憶がある。

お伊勢参りの観光客や、名古屋など大都市の男を相手にしていたのではなかったのかと思う。
光と影、表と裏、聖と俗。
これらは常にセットなのか。

こうした性風俗と観光がセットのような場所は、島のような隔離されたところじゃなくても、日本のあちこちにあって、主に貧しい家庭で育った女性や、差別扱いを受けることの多い女性などが就労することが多いように思う。

背景には貧困や差別があり、そして常に搾取が付き纏うのだ。

僕達が日頃から目を背けがちな風景が、この作品にはある。

僕は大学の研究テーマで、国際的な貧困と搾取の問題を取り上げる際、アジアで行われる構造的な売買春についてレポートを作ったことがあった。

詳細は長くなるので省略するが、背景には貧困があり、その貧困の背景には豊かな国が貧しい国を更に搾取するという構図が明らかにあるのだ。

本作は、行き場のない得や女達が、必死で生きる様が描かれている。

母親が女郎。
差別。
貧困。
外界に解決策を求めることが出来ない閉塞感と苦悩。
搾取。
暴力。
異常とも取れる愛。
性欲を満たすためだけに訪れる男達。

だが、そのなかにあっても、笑いやささやかな幸せはあり、それを噛み締めるように笑ってみせる様は切ない。

国際的な構造的売春問題は、先進国や、先進国をベースにした国際的企業が、発展途上国を搾取するような状況から早く脱却すべきだと思うし、それは大きな解決方法だ。

しかし、この作品に描かれたようなものはどうだろうか。

本来は、貧困や差別がベースにあり、細かく言えば、家庭内暴力や、性的暴力を受けたような行き場を失った女性が働くことが多いかもしれないし、これを容易く受け入れるのは搾取を厭わない連中で、それに群がる男性が多くいることが要因なのだから、無くなる方が良いに決まってるとは思うし、実際に、社会からこぼれ落ちそうになっている女性をサポートするNPOもある。

僕も、こうした弱い立場の人間が追い詰められていく状況を決して肯定は出来ない。
光と影、表と裏、聖と俗はセットだとは思わない。

だが、この映画を見て、状況はなかなか改善されないだろうと思い、辛い気持ちを覚えると同時に、悲しみや閉塞感、困難の中にあっても、僅かでも光を放つ人間の強さや、ひたむきさ、生きる力を感じ、胸が熱くなる。

この作品は、皆が目を背けがちなテーマに光を当て、問題提起をしつつも、その置かれた状況を肯定はせずとも受け入れ、更に考え続けさせる重厚なものになっていると思う。

やりたい奴がいて、金に困ってる女がやらせてやって金をもらって、需要と供給が一致してるんだから、何も問題ないでしょと、したり顔で言う低脳のバカがいることは想像に難くないが、この作品から見える社会問題もあるように思う。
だから、観た人には、是非様々なことを、色々な角度から考えて欲しいと思う。
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