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ファースト・カウのandhyphenのレビュー・感想・評価

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
3.9
ケリー・ライカート監督作日本初公開!と言われても無知過ぎてピンとこなかったが、私の好きな映画監督たちの絶賛コメントを読むとそれは観たくなるというもの。
時代的には西部劇の時代の、男性の友情物語ではあるのだが、そのことばから想像するアツさみたいなものはまったくない。静謐な映画である。
気が優しい料理人のクッキー(ひっくり返ったトカゲを助けてやったり、キング・ルーのお家で頼まれてもないのに掃除を始めたり、牛に同情したり、気の優しさエピソード満載である)と頭が切れる中国人移民のキング・ルー。
このふたりの分かち難い友情ががっつり描かれる映画ではない。それが明確にわかるのは冒頭と最後だけというつくりになっている。キング・ルーのほうは友情より利害関係からクッキーと共にあるようにみえる。
そして彼らがおこなうのが「乳搾り泥棒」であり、そこから作るドーナツで富を得ること。正直なところ絶対破綻すると分かっていながらあの展開を見つめるのは緊張感があった。特に後半、泥棒が露見するときの画面構成と展開が秀逸だと思えた。
画面展開も弛緩はなく、ただとてつもなく暗く、シンプル。本当に最低限の演出(言い方が変なのだが、過度な装飾がないという意味)で、説明も少ない。それでもラストを観たとき、冒頭を思い返して「ああ…」という感嘆にも近いため息が漏れる。そんな物語だった。
どことなくハル・ハートリーっぽさあるな、とも思ったが、ケリー・ライカートは『アンビリーバブル・トゥルース』で衣装担当した上に出演もしてたんですな。
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