イーストウッドの「『普通に』タスク処理をした人=ヒーロー」シリーズ最新作の『リチャード・ジュエル』は、まさかの「普通の」英雄的行為をしたらヴィランに仕立て上げられてしまう型サスペンスです。
昨今のイーストウッドは、決められた正当な手順と職業的経験に基づき「普通に」仕事をした人こそヒーローであるという英雄譚を繰り返していますが、本作は近作とは比較できないほどに明確にテーマ(おそらくイーストウッドが感情移入したであろう)が提示されるので、これはもう驚きました。
子犬のような純粋無垢な顔立ちで、まさにワンワンと自分を追い詰めるFBIに協力してしまうリチャード、その暴走が生むサスペンス。そしてその子犬のリードを握りしめ、それこそ『トゥルー・クライム』でイーストウッドが演じた記者のように子犬を助けるワトソンのやさしさが尊い。
非常に豊かな時間を過ごせる良作であると同時に、明らかに不必要に脚色され、いつも以上に激しくなっているイーストウッドの「許容できない“詩的許容”」がどうしても目に余る。
上述のテーマというのは、「行き過ぎたマスコミと国家権力への批判」ですが、それを描いた本作『リチャード・ジュエル』が行き過ぎた、偏ったメディアになっているという何とも奇妙な構造が見れる作品でした。
動画でもレビューしました
https://youtu.be/XWG6AFdga_g