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すばらしき世界のHKのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.0
このタイトルをそのまま真に受けるか、大いなる皮肉と受け取るか・・・
この世界とはそもそもどの世界のことか・・・

刑期を終えて出所し、更生しようとしても前科者に世間の風は冷たく・・・というありがちな題材を西川美和監督が今さらどう描くのかと興味がありましたが、観終わると単に面白かった面白くなかったでは済まなくなっていました。

今回はグサリと鋭く突いてこないなと油断していたら、観終わってから自分の胸にしっかりと突き刺さったナイフに気付いたという感じでしょうか。
しかも根本まで深々と。

原作は実話ベースだそうで、どこまで脚色なのかは知りませんが、リアルな話のようでもあり寓話のようにも感じます。
映画ですからラストはどうとでもできたハズですが、あえてこのラストなんでしょう。

おかげでいろんなことを考えさせられてしまいます。
主人公の三上が適応しようともがく現代社会はすばらしき世界なのか?
我慢を重ねて自分の居場所を守るのが当たり前、それが社会に適応することなのか?
そんな世界は三上(や私たち)にとって適応する価値があるのか?
そんな価値が無いから三上は別の世界に行った(行かされた)のか?
では、三上が最後に行った世界こそが実はすばらしき世界なのか?
イヤ、自分を気にかけてくれる人がいる、たまにイイこともある、それで十分すばらしき世界ではないのか?
答えはどれも簡単には出ません。

時代に取り残された名作西部劇のアウトローたちの最後をも思い出します。

以前、西川監督が名作『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を観て「人の人生を見ていたつもりが、自分の人生を見せられていた」とコメントしていたのを思い出しました。
本作を観て私は少し同じような気持ちを味わいました。
他人の人生と思っていたら、自分の一部を見せられているような・・・


≪追記≫
原作『身分帳』主人公の実在したモデルは、生前もし映像化されるなら主人公は高倉健がイイと言っていたそうです。
オープニング、北海道の刑務所を出所する福岡出身の過去に殺人を犯した男。
あ、これはあの『幸せの黄色いハンカチ』と同じですよね。
モデル本人もこの映画の健さんと自分を重ねていたのではないでしょうか。
でも寡黙でカッコよすぎる健さんより、役所広司が演じたダメ男ぶりにリアリティがあったように思います。
(私も福岡なんで役所広司の方言は生前の父親を思い出しました)
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