カルダモン

すばらしき世界のカルダモンのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.2
人生の大半を塀の中で過ごした男の社会復帰と、社会で出会うことになる人々との交流が描かれる。佐木隆三原作の実録小説『身分帳』を西川美和が映画化。登場人物はどれも魅力的で、セリフのない人物にまで何かを感じざるを得なかった。シリアスな題材ではあるものの、独特なユーモアと音楽で絶妙な塩梅。そしてこの映画を彩る役者陣の魅力についてはキリがないので割愛します。

色々な思いが巡る映画でした。何度も頭に浮かんできたのは「歯車」のイメージ。あまりにもベタすぎるけど。。社会生活を回す歯車の形は人それぞれで、意識的にせよ無意識にせよ研いだり磨いたりしながら周囲とカチッと噛み合うように調整している。でも、三上にはなかなかそれが出来ない。自分の中にある確固たる正しさに従って「社会」というものに対して鉄槌を下す。

怒りを飲み込むことで自分が社会にいられるのだとしたら。我慢さえすれば周囲と調和できるのだとしたら。それが社会に生きることなのだとしたら。そんな行き詰まった思いを、見事に和らげてくれたのは周りにいる人たち。近寄りがたい元極道を相手に積極的に関わろうとする人々の姿と、それに応えようとする三上の、目に見えない感情の触れ合い。そこから生まれる会話の変化や表情の変化が見どころ。

誇張の強さが目立ってリアリティから離れてしまう表現もあったけれど、むしろ現実社会ではもっと実態が見えにくくて伝わりにくいのだと逆説として受け取れる。私にだって三上のように全身の血が逆流する感覚はあるし、たまたまそれが表面化していない(あるいは出来ないように慣れてしまった)だけなのかも知れない。



東京では緊急事態宣言中ということもあってか客足もまばら。各列0〜2人程度といった具合で、公開後最初の日曜日としては本当に寂しいものでした。一方で混雑気味のショッピングモールを横目に、なにか噛み合わなさを感じてしまう。

ソニー損保のCMがもう三上にしか見えない。ガソスタで働く三上、陰ながら応援してます。