むぎたそ

すばらしき世界のむぎたそのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
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「ヤクザと憲法」で諸問題を断片的に知ってはいた。映画として途中まであまりいいとは思えなくて、これなら「ヤクザと憲法」でいいんじゃないか、とか思っていたけど、後半からじわじわよくなってきて、フィクションで伝えることの意味など考えていた。物語のほうが人は享受しやすい、間口の広さ、スターが出てる。こっちのほうが多くの人に伝わるのかな。
いいと思えなかった大部分の理由は、役所広司が役所広司すぎること。らしすぎて、画面に余計なあざとさが出てしまうように思う。なんか出てくるだけでおなかいっぱいになってしまう。(これは橋爪功や梶芽衣子にもいえることで、めちゃ大物じゃないけど北村有起哉にもいえる。長澤まさみもかな。)いかにもな映画俳優感が出てしまっていて、物語やテーマを邪魔しているようにすら感じてしまった。他の俳優がやるパターンや無名の俳優がやるパターンをシミュレーションしてしまったくらいだもの。
しかし、仲野大賀はよかった。自分が大して仲野大賀を見慣れてないからかもしれないが、彼の演技にはくさみがない。仲野大賀という俳優が好きになったかも。数年前「ゆとりですがなにか」で初めて見てから最近気になってきてたな。そうなると、仲野大賀に対して無名俳優じゃなあ、ってことにはなるから、それに対峙して立つような人、役所くらいがいいのかなあ。でももう少し強くない人(武闘的にではなく)でもよかった気がする。
大賀が、表現欲や自己顕示欲を満たすための取材ではなく、人間として、三上に近づいていく(三上のために行動する)ところは、ほんとうによかったし、六角精児もいやなやつに見えるときはいやなやつだしいいひとのときはがらっと変わっていいひとすぎて演技うますぎる。生活保護?役所?職員の北村有起哉も一枚岩じゃないところがいい。
西川さんは観る人の感情の流れ(リズム)を作っていくのが丁寧でうまいなー。ヤクザがカタギに戻ることの難しさやしんどさを、前半の閉塞感(社会に受け入れてもらえない生きづらさ、怒りを抑えられないやるせなさ)から開放感(都会の夜のシーンでヤクザの旧友に電話してそっちに行く話をしている音声が流れる)にもってくのとか本当にうまいし(ヤクザに戻るのしかたないね、と感情移入してしまう)、読後感をつくるのもうまい。かなり酷なラストシーンから空にカメラが上がって「すばらしき世界」ってタイトル入るの鮮やかすぎるのよね。途中、まあまあハッピーなシーンで終わらせても映画としては成立するのに、さすがだなあ、と思った。最後のほうは、どう終わらせるのか、ばかり気になっていたから。
介護施設での我慢の描写は、最近、やまゆり園の真相についての記事を読んだし福祉施設で働いてる人の吐き捨てるような言葉を耳にしたことがあり、本当によくあることなのだろうと思われた。。しかしあの障害者の人を殴ってた職員が全部悪いわけでもないもんね、現に入所者が溺れて死にそうになっていたのだから。物事は一面じゃないね。
ソープ嬢の震災にまつわるエピソードや子どもの話も語りすぎずしかし伝わるからいいと思った。入れ方がうまーい!やっぱり西川さんはいいな。(師匠格の是枝さんドラマは私はあんまりなのですが。。)
途中までのれないかと思ったけど、見終わったあとはまあまあよかったな、となってる。めっちゃいい、ではないけど。役所広司は後半がよかった。
とはいえ、バイオレンスみは初めて見て、新鮮だったので、過去にヤクザを演じた他作品も見てみたいなと思いました。

どう脚色して作劇したか知りたいので、佐木隆三の原作も気になる。
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