シズヲ

静かなる男のシズヲのレビュー・感想・評価

静かなる男(1952年製作の映画)
3.2
アイルランド系の監督が撮った帰郷映画。緑広がる自然風景のロケーションはやはり美しく、住民達の長閑で明るい気質も相俟ってさながら御伽噺の世界を思わせるムードを感じられる。酒場の場面などが顕著だけど、主役らを取り巻く脇役陣の愛おしさは間違いなく本作の魅力。デュークとモーリン・オハラが恋愛に発展するまでの流れを“心情”で描かず、帰郷したデュークが羊の世話をするオハラに見惚れる長回しなどの“演出”によって説得力を与えるスマートな手法もジョン・フォードらしい。風雨を“ロマンスを引き立てるアクセント”として効果的に活用しているのも良い。

ただオハラの“気が強い女性”というレベルを越えた気難しさはいまいちピンと来なくて、アイルランド的文化を加味しても沸点が低すぎる彼女の挙動は正直受け入れ難い。本作では比較的温厚だったデュークも結局オハラの性格に触発される形でお馴染みの俺様気質を発揮させてしまうだけに、牧歌性に反発するような主役二人の痴話喧嘩にどうも馴染み切れなかった。夫婦間の相互理解不足をデュークが最終的にパワーで強引に解決して、同等のパワーを持つ兄貴の方と男性的価値観による相互理解を果たしてしまう展開も妙に引っ掛かる。

しかし終盤の粗野っぷりをアイルランド気質で包み込んで“愉快な展開”へと昇華させたことには脱帽する他無い。奥さんをめちゃくちゃ乱暴に引きずり回すし(こういう描写は良くも悪くもフォードっぽい)、主人公のトラウマ克服もそこまで深みをもって描かれている訳でもないのに、住民達が総出で賑やかに騒ぎ出すことで何故か多幸感全開に。もはや殴り合いすらお祭りの如く清々しくなる。やっぱり本作で一番良いのは終始気持ちのいい連中として描かれる“イニスフリーという共同体”なんだよな。
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