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エルヴィスのRenのレビュー・感想・評価

エルヴィス(2022年製作の映画)
2.5
伝記映画の評価がモデルの人物への思い入れに左右されるのは宿命なので許してほしい。エルヴィス・プレスリーの音楽とは無縁で生きてきたので、もっと彼のことを知っていればシーン毎に一喜一憂できたのかもしれないけど、それにしても薄さは否めなかった。

よく言われる「もはや主役はパーカー大佐(トム・ハンクス)」との評は、それは少し違うのでは?と思った。
スターとマネージャーの話を客観ではなく大佐を狂言回しとして照射する構造自体は面白いが、だとしたら上手くいっていない気がする。やるなら徹底的に大佐を中心に据えてほしいけど、エルヴィスが物語の主体となっている時間が多く、どちら目線でライドすればいいのか分からないまま進んでいった感がある。
オースティン・バトラーとトム・ハンクスの憑依演技合戦が、競演ではなく相殺し合っているような物足りなさがあった。

編集の手際の良すぎる感じ、カメラをぶん回して映像をチャキチャキ刻んでテロップとコラージュでキラキラ飾りまくる『ムーラン・ルージュ』のあの感じが全然抜けていなくて感心する。
エルヴィスの母親が亡くなるまでの前半1時間がこんな感じだったのでここからどっしり見せるのかと思いきや、後半も基本ズンズン進んでいく。気づいたらスターになっているし気づいたらマネージャーとの確執が深くなっているし気づいたら終わっている。映画の主人公が「エルヴィス」ではなく「エルヴィス年表」になってしまっているので、特に後味が残らずサラサラ流れてしまった。

バズ・ラーマンの豪華絢爛と形容される作家性は実は空元気と紙一重で、そんな彼がショービスの世界の負の遺産の物語を監督したことには納得した。音楽史的には超重要なエルヴィスの音楽も彼のショーも、バズ・ラーマン演出にかかると「(搾取の上で成り立っている)虚構」としての面が前景化する。
『華麗なるギャツビー』(映画未見、原作既読)もそういう側面のある話なので、そちらを彼が監督したのも納得できたしなる早で映画版観ようと思った。

何気に一番好きなのは、『That's All Right』の演奏シーン。セッション的に音楽が組み上がっていくライブの快楽。

総論、『8 Mile』のエミネムや『ボヘミアン・ラプソディ』(自分がQueen好きなので色眼鏡で観ている部分は多分にある)のフレディに抱いたような感情はあまり湧かなかったし、今作を観てエルヴィス・プレスリーのことを分かった気にはそこまでなれなかった。
派手な割に無味。ちゃんと彼の曲聞きます。

その他、
○『Can't Help Falling in Love』はUB40のカバーバージョンのほうに馴染みがあるので、今作きっかけでしっかりオリジナル版聞いた。
○ Måneskin気づかなかった。
○ コディ・スミット=マクフィーが『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の時と同じような衣装で出てきた。歴史ものの似合う俳優。
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