ドント

バビロンのドントのレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
3.5
 2021年。きったねぇ映画の都、ハリウッドへようこそ! 時代は1920年代後半、映画業界の酒池肉林のランチキパーティーに働きに来たメキシコ人マニーと、明日のスターを夢見て潜り込んだネリー、首尾よく映画スタッフ/キャストのチャンスを掴んで階段を上がるふたり、しかし何やら、映画に「音」がつくらしいぞ。音つきの映画なんかウケるはずが……ウワーッこれは大革命や!
 映画が無音でたまに字幕だけ出ていたサイレントから、声も音も音楽も鳴るトーキーへと移る過渡期、その時代に羽ばたき取り残されスッ転んだ人々の栄枯盛衰を描く。そういう意味では作中で幾度も擦られる、サイレントからトーキーへという時代を描いた『雨に唄えば』の裏焼き映画であるとも言える。声と態度の悪さ、クスリとギャンブル、あるいは特に理由もなく、時代の変化についていけなかった者たちへの挽歌であり、綺麗でキュートで明るい『雨に唄えば』のネガポジである。それはわかる。が。
 チャゼルくんには『セッション』からしつこく続く音楽(ジャズ)コンプレックスに同情していたが「映画史」をやるってんなら話は別であり、「映画史」「映画讃歌」をやるにはまだ若い。まったくもってチャゼル(呼び捨て)はまだ若い。長回しとか尾行撮影とかも、音楽が抜群に素晴らしいのでワクワクはするのだが、映像的にはどうにも「このくらいでよろしいやろ」感があってそうかい? という気持ちが残る。撮られる映像、役者たちの動きもまるで今の映画である(その点、丘の上でのブラピの仰々しい動きはそれらしかった)
 暗黒面をやるってんでもセックス、ドラッグ、酒、スカトロ、裏社会、アングラをとにかくブッ込めばどうにかなると思っているフシがあり、映画の序盤でゾウさんの用足しとか黄金水シーンを入れるあたりからしてどうにも「がんばった悪趣味」といった趣。でもまぁ役者とか美術とか音楽とか殺意みなぎるドタバタとかで180分は飽きさせないのでさすがに偉いもんだな、と思っていた。が、しかし。
 最後の「フラッシュバック」にアレとかソレ……つまり「あと」のモノを混ぜてきたあたりで自分はムッ……と厳しい顔になった。これって「あれ以前」の映画に対する冒涜ですらあるのではないか、と思うのだ。そういうルール違反がまかり通るくらいに強い映画だったのなら話は別だが、ムッ……ときたということは、そうではなかったということである。つまるところ、まだ若い、という結論に戻る。
 しかしとにかく音楽や衣装は素晴らしく(3回目)、時折炸裂する小手先ではない「わるい」シーンも好ましく、出ていると得をした気持ちになるエリック・ロバーツも出演していたし、あと「本作は! 180分なんですよ!」という気迫はあったと思う。映画館でバカのランチキ騒ぎを観れて、この音楽を聴けたのは最高の体験と言えた。おわり。
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