ドント

if もしも・・・のドントのレビュー・感想・評価

if もしも・・・(1968年製作の映画)
3.7
 1968年。新学期がはじまった英国の寄宿学校での、男子生徒たちの楽しくもクソみてぇな生活を描く準・群像劇。少女漫画界の24年組に影響を与えたそうである。萩尾望都とか竹内恵子とか。おわかりですね、男だらけのパブリックスクール、ギムナジウム。あれをきったねぇ感じにするとこの映画になります。
 古き良き建物の中では新学期で引っ越す生徒たちが右往左往、偉そうな顔をした教師や監督生が「常に駆け足!」だの「長い! 髪を切れ!」だのいちいち命令してきて、そりゃまぁ軍事の教練もあるので上意下達は当然っちゃあ当然なのだが、それにしても腹が立つ。「こりゃ滅ぼさねばならんぜ」と腹が立ってくる。
 授業や日常の合間に、この学校には欺瞞、醜悪、悪徳が蔓延していることが点描される。いじめ、性的虐待、上級生に可愛い下級生を「あてがう」やり口、ダウンタウンのコントくらい脈絡のない体罰、などなど……建前と現実のギャップが露骨であるから、先程に輪をかけて「これは滅ぼさねばならんぜ」と思えてくる。
 物語としては起伏に乏しく、英国の学校を描く、といった枠組からは外れない。欺瞞を抱えつつ生徒はみんなほどほどに生活している。カラーになったり白黒になったりする謎はあれど、演出に凝ったところはなく、問題を指弾するトーンもなく、とても地味な映画と言える。腐った学校生活と青少年たちのワチャワチャでなんとか魅せているといった案配。
 が、しかし。そんな学舎でひとり、反抗の瞳、虎の目を持っているのがミックことマルコム・マクダウェル。『時計じかけのオレンジ』の彼である。硬軟軽重様々な「ワル」が出てくるがこいつとマブダチの三人組(あとで2人追加)のワルさは不良、ヤンキー、反抗のそれだ。彼らの中に徐々にふつふつと沸いてくるものがある。
 おブリテンのお学校に不良の魂を持っている奴がいるのだからもう面白いのだが、このミックというかマルコム・マクダウェル、色香が物凄い。暴力性と憂い、反抗と弱さが同居した深いブルーの瞳が物凄い。世に揉まれていない不良、反抗的青少年の美しさが極まっている。不良だけど着ているのはしゅらっとした英国の制服なのでギャップに悶絶する。そんな彼が冷水シャワーの刑とかムチ打ちとかされるわけで、もう大変である。
 ミックたちの苛立ちが高まると共に「え、今のは何?」みたいな空想的シーンが増えてきて、虚実の境が若干曖昧になってきたあたりで偶然が重なり、とんでもない事態を迎える。そりゃまぁ僕、「滅ぼさねばならんぜ」とは思いましたけど、そこまでやれとは言っていないクライマックスに突入する。ここ、ミックら男三人があんまり楽しそうじゃないのが素晴らしい。
 この終盤が反抗的生徒の空想(もしも、こうだったらなぁ)であることは否定しきれないものの、そもそもがこれは頭からシッポまで全部映画=作り物なのである。ということはこの「if」とはむしろ、「もしも、現実にこんなことが起きたら……」と我々に向かって投げられたタイトルなのであろうと思う。学生の社会運動や反動行為は下火になったが、本作の終盤みたいなことは実際に起きる世の中になってしまった。いやはや。そういう意味では古い内容であるけれど、思春期青年期のピュアな反抗心と苛立ちが封じ込められた一本であることは間違いない。
 余談になるが、ミックほか不良連中と、他の同学年の連中との絡みがもっと多かったらすごい量の濃い出汁が出ていただろうと思う。24年組のパブリックスクール狂いの契機と言われると深く、深く頷ける作である。しかしマルコム・マクダウェルはセクシーだったね……
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