カルダモン

バビロンのカルダモンのレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
3.5
1920年代後半のハリウッド。映画がサイレントからトーキーへと移り変わっていく時代に、銀幕の裏側にあった飛躍と転落の群像劇。光の部分を描いたのが『雨に唄えば』だとするとこの映画は『裏・雨に唄えば』、というのをドヤ顔したチャゼルがドヤっ!と突きつけているような気がして2〜3歩あとずさり。

もっとメチャクチャな業界の裏側、エゲツないハリウッドの暗部が観られるかと期待したのだが意外とそっちには振り切れず。冒頭、酒池肉林のパーティシーン長回しでさえ絵作りが整いすぎていて、画面に映っているものがゲロだろうがクソだろうが乱交だろうが、監督デイミアン・チャゼルのお行儀の良さが滲み出ていると感じた。

主人公はブラッドピットとマーゴットロビーのダブルキャストなのだろうと思っていたのだがそうではなかった。映画製作を夢見るメキシコ系のマニーが軸にあり、そこで出会うことになる面々はそれぞれに内なる事情を抱えながら製作現場をサバイブしている。ひとりひとりの人物像は面白いし個々のエピソードも興味深い。なんなら各人を主人公にして一本分の映画が作れるくらいにもっと掘り下げてほしいと思った。(一番興味を惹かれたのはサイレント映画の字幕を作っていたチャイニーズ系の女歌手)

激動のハリウッドを描くためにいろんな要素をぶち込むのは致し方のないことだろうし、限られた時間の中で全てを描くことができないことはわかる。だが、この映画は明らかに過積載だった。次から次へと展開されるエピソードの分量はドラマのワンシーズンを使ってようやく丁度いいくらいのもので、3時間という単品映画としては長いのに内容的には尺が足りないという、なんとも欲張りな作品に仕上がってしまった。

どんなに現場がメチャクチャでも、カメラが回った瞬間に音や光や言葉、背景やセットや衣装が奇跡的に組み合わさり、映像として焼き付けられる。そんなシーンとシーンが連なって一本の映画が完成する。映画がどのようにして作られたのか、その裏側も含めて知ることで理解が深まり、映画を好きになり、視界が広がっていく。走馬灯のように繋がる映画のワンシーンたちが時代を超えて今に繋がる。自分の行く末が行き止まりだったとしても、映画は先の未来に繋がっている。現在でさえ現場の問題は改善されつつも新たな問題が噴出してもいるし、未来の映画作りはどんなだろうね、ということに思いを馳せながら迎えたエンド。

掴み損なった夢だったけどそれもよし。輝いた瞬間はあった。思えば『セッション』も『ララランド』も理解されない境遇の中で夢を追う人達の話。しかしハーバード大卒の32歳が史上最年少のアカデミー監督賞を受賞し、出世街道しか辿っていないチャゼルがそれを描くのはどうにも飲み込みにくく、モヤっとしている今現在。