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17歳の瞳に映る世界のmaverickのレビュー・感想・評価

17歳の瞳に映る世界(2020年製作の映画)
4.3
2020年のアメリカ・イギリス合作映画。『ブルックリンの片隅で』の女性監督であるエリザ・ヒットマンの3作目の長編映画。第70回ベルリン国際映画祭で銀熊賞 を受賞した。


17歳の少女の妊娠を扱った作品。お涙頂戴の感動ドラマ的な作風とせず、当事者の体験をそのまま切り取ったかのような描き方が特徴的。まるでドキュメンタリー映画を観ているかのようだった。

主人公のオータムの視点で物語は淡々と進んでゆく。淡々としているが、これがむしろ自然だと感じる描かれ方だった。それに全く起伏がないわけでもない。オータムは感情が乏しい女の子ではあるが、その中にある心の揺れ動きをしっかり感じ取ることが出来る。何を考えているか分からないと言われる人だって、その人の世界で必死に生きているのだ。仲の良い従姉妹のスカイラーは対照的に愛嬌のある性格だが、この二人の関係性もとても自然だった。オータムの普段の日常と、妊娠が発覚してから新たに体感する世界とを、圧倒的なリアルさで監督は表現している。

未成年が妊娠するとどうなるか。初めて知る事実に驚きの連続だった。中絶するか、産むかの選択肢も含めて、一人で決断して行動するにはこんなにも大変なんだということを思い知る。当事者の気持ちを知ることが出来るこういう作品は大変貴重だ。こういうことは実際になってみなければ分からない。彼女のような状況に陥ることは稀だとは思うが、もしもそうなったらと考えられることは大事だ。軽々しく避妊無しのセックスをして妊娠し、中絶することになったらどうなるか。それを知っておくべきだろう。自分の子供にも起こりうることでもあり、親も現実を認識しておかなければならない。オータムも親に打ち明けられないから余計に苦しんだ。親も子も、本作から得るものは非常に大きい。

未成年の子が性の対象とされている描写の数々が良い意味で嫌悪感だった。日本でもセクハラや性犯罪が毎日起きている。それがどれだけ嫌悪すべきことかを主人公視点で感じることが出来る。職場の上司はマジで最悪だった。地下鉄のサラリーマン風の男も怖い。女性が日々どれだけそういう目で見られているかを痛感する。父親は義理の父らしいが、こいつも最低な奴だったな。


評価の高さに納得の素晴らしい作品だった。淡々としたドキュメンタリー風ではあるが、主人公オータムを中心とした感動のドラマでもある。それが変なお涙頂戴になっていないというだけ。この世代の女の子のリアルな日常を切り取った物語であり、自分自身の考えで行動する力強い女性のロードムービーでもある。とても考えさせられる話でもあった。


エリザ・ヒットマンは今後要注目の監督だ。現実の問題を取り込んだ社会派な表現性と、そこに生きる人々をリアルに映し出す描き方が素晴らしい。主人公オータムを演じたシドニー・フラニガンも同様に要注目だ。本作が初の主演だそうだが、淡々とした自然な演技の中に強烈な存在感を発揮している。感情が溢れ出て涙するシーンなど、この役への没入感が半端なかった。従姉妹のスカイラーを演じたタリア・ライダーも光ってた。今後が楽しみな共演陣ということでも、本作は一見の価値ありだ。
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