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ザ・ケーブのQTakaのレビュー・感想・評価

ザ・ケーブ(2019年製作の映画)
4.0
人々が、ただただ傷つけられていく。
その攻撃の下、ひたすら医療に従事する姿。
何故こんなにもして苦しまねばならないのか。
「理不尽」とは、こういう状況をさすのだろう。
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冒頭、静かな街並みを臨む映像に、爆発とともに煙が立つ。
立て続けに二発、三発と爆発が起こる。
空爆だ。
この街は、こうして壊され、その下では人々が傷ついていく。
ここでの日常をまざまざと尽き付けられる空爆の映像。
傷ついた人々が毎日運ばれてくる病院。
その医療の現場を取り仕切るのが主人公の女医バロア氏だ。
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現場は、日一日悪化していく一方だ。
アサド政権が牛耳るシリア軍と歩調を合わせるロシア軍が街を空爆する。
それは、街を徐々に端から攻めてきて、やがては街全体を廃虚にするのが目的なのか。
街の各所に有った病院も次々に破壊されてきた。
そして、バロア氏の病院もその標的になる。
そこで、病院そのものを空爆から守るために地下に避難した。
それが、洞窟の病院”The cave”だ。
子供も、女性も、そして多くの負傷者と病院職員も暗く、湿った地下に避難する。
病院としても、生活の場としても、その劣悪さは手に取るようにわかる。
そこが彼らの居場所なのだ。
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空爆の様子が本当に怖い。
ジェット戦闘機の爆音が近づいてくる。
そして、爆発音とともに振動、埃が舞い込んでくる。
やがて、負傷者が運ばれてくる。
助けられた人、出来なかった人。
その繰り返しだ。
そして、医師達は疲れ果て、哀しみと悔しさに涙を流す。
戦況(民間人のすむ場所が、その民間人を標的にした戦場になっている)は、日に日に悪化していき、病院の状態も劣化していく。
疲弊していく病院の医師、看護士たち。
戦場には、ついに毒ガスまで使われる。
子供たちも含め多くの被害が出る。
しかしながら、病院に、毒ガス被害者を助ける術が無い。
薬も、装備も補充もなくどんどん不足していく。
負傷者を前にして、助けられないジレンマ。
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爆撃に追いつめられ、負傷者を抱え。
この地に残るのか。
放棄して、出て行くのか。
故郷を守れないのか。
非道な政権に屈するのか。
生きるための戦いがここで一つの区切りを迎える。
彼らの生き方を私たちはこの目でしっかりと確認しておこう。
これが独裁政権の導いた現実なのだと。
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彼女は、この病院の責任者を務めている。
医師であると同時に、この病院の長なのだ。
女性である彼女が現場を取り仕切ることに、現場の医師・看護師、職員達に異論はない。なぜなら彼らが彼女を推して選んだのだから。
しかしながら、男女に差を設ける文化の中で、患者達やその家族達の中には、彼女を受け入れられない現実も有る。
通り一遍の論理では行かない現実が有るのだ。
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この映画に物語などない。
有るのは事実だけだ。
そして、そこで必死に生きようとしている人々と、生かそうとしている医師達だ。
そのことにただただ圧倒される。
なぜなら、これが紛れもない事実だという事があるからだ。
現在進行形の事実として、受け入れざるを得ないのだ。
そして、その中に彼女達が居たという事だ。
どうする、この事実を知って。
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