よしまる

雨あがるのよしまるのレビュー・感想・評価

雨あがる(1999年製作の映画)
3.8
観たいと思ってた黒澤明の遺稿の映画化、今回アマプラ見放題終了(と言っても復活するケースが多いけれど)を機にようやく鑑賞。

山本周五郎の原作は知らないのであくまで1本の映画としての感想になってしまうのだけれど、このコンビにはいつもなぜかどこかファンタジーの要素を感じる。

今回も寺尾聰の飄々とした浪人の人生が実にファンタスティックで、浮世離れした感覚で現代人の我々が持ち得ない生き方をしていても不思議な説得力を持ってしまう。
ましてや慎ましやかで芯のある最強宮崎美子に至ってはこの世のものとは思えないワンダフルな奥さんだ。

雨の景色や村の住人たちのゆったりと流れる時間の描写、対をなして城周辺の整然とした空気。と言ってもあの殿様ゆえ、もちろんそう大きくもない田舎のお城なのだろう、誰もがちょっと人情味のある者ばかりで温かみに溢れている。

殿様が馬に乗りながらくるくる回ってるのがとても面白く、じゃじゃ馬とわかっていて好んで乗っているのか、それとも乗りこなせないのを頑張って乗っているのか、そんなところを想像させるのも黒澤監督のいわば遺作を手掛けんとする監督やスタッフの心意気が垣間見れて楽しい。

それにしても遺稿とは異なるラストにした小泉監督の大英断。これがこの映画のタイトルを輝かせている。

ネタバレは避けたいので印象に残ったセリフは胸に刻んでおくことにして、個人的にはなぜ伊兵衛が職につけないかを看破する檀ふみにゾクッとした。それはこの映画の主題ではないけれど、これを経てこそのラストだなと思うと単にいい人話で終わっていないところがやはり素晴らしい。