登場人物それぞれの葛藤や機微を見事に切り取った、とっても良い映画でした
並走する線路を走る電車
しばらく並走し左右へと進路を別つ
最初から目的地も終着駅も違うから当然なのだけれど
夫は夢を追う
自分が新天地で成功することで愛する家族を幸せに導くのだ、と
妻は現実を見る
稼げる仕事も何もない田舎で家族が幸せになどなれるはずはない、と
擦れ違い、ですらない
最初から夫婦間の意思はバラバラで見据える未来も違っている
けれども、だからこそ、この夫婦を繋ぐ二人にしかわかり得ない愛情の強さ、絆を感じさせる瞬間が何気ない台詞の端々から、表情から、ポロリと零れ落ちます
この先、この夫婦は(家族)はどうなっていくのか?という前半、登場人物が増えて一気にユーモアとポジティブさが増す中盤、そして夫婦が家族が瞬く間に壊れていく様を捉えた終盤、だが、ラストには微かな、まだそう呼んで良いのかも判然としないような状態の、極小さな希望の光の欠片のようなものが、ほんの少しだけ降るラスト
とにかくストーリーの運び方が上手いのと、シリアスにもユーモアにも寄りすぎない、適度な、曇り時々陽が差す天気のような演出は見事に、家族みんなの心の機微をきっちりと映し出しています
単純に観れば、男はいつでも身勝手で、全て女の努力なしには、成り立たない、とも取られかねない話ではあるけれど、私はそうではないと思いました
男は男であるという呪いの上に立ち、妻と家族を勝手に背負い込んで、女は女であるという因習に縛られて、夫と家族を勝手に背負い込んでいるのではないか?
であるならば、冒頭の電車の話
終着駅は、家族全員で幸せになりたい、というのは一緒であって、要はどの路線で行くか?の違いであるように思います
私達はつまるところ、全員他人
夫婦であっても、汲み取れる部分とコミュニケーションを取らなければ、絶対にわかり合えない部分は当然あるわけで
夫婦とは、家族とは、誰か一人が責任ある運転手の運命共同体ではなく、一人一人が等しく互いに護り愛され生きていく為の集合体であって、私にはやはりそれを、夫婦や家族と呼ぶ以外に相応しい単語が思い付きません