ジャン黒糖

ミナリのジャン黒糖のレビュー・感想・評価

ミナリ(2020年製作の映画)
3.9
今年行われた第93回アカデミー賞で韓国人のユン・ヨジョンさんが最優秀助演女優賞を獲得し、前年度の『パラサイト』に続き、2年連続で”韓国”人にとって象徴的な出来事になったことでも話題になった感動作。
作品テーマ、テイストから日本人的には地味な印象を持たれる映画だけど、各映画賞でノミネート・受賞するのも納得の、とても現代アメリカらしい、個人的には好きな1本でした!

【物語】
韓国系移民のジェイコブ・イはアメリカの大地で韓国野菜を、同じく韓国系移民たちのために作るという農業の夢を叶えるため、アーカンソー州の田舎町に家族で移住。
妻モニカはそんな彼の、家族よりも自身の夢を優先する姿勢にストレスを募らせるが、交換条件的に母親であるスンジャにも同居してもらうことになり、アメリカで生まれた持病持ちの息子デビッドは、生まれて初めて祖母と会うことに。
花札が好きで口の悪い祖母スンジャの姿に最初こそ面食らうデビッドだったが、やがて家族の生活に刺激をもたらすことに…。

【感想】
アメリカで生きるカッコ付きの”アジア人”らを主人公とする感動ドラマらしい映画ポスターのルックとアカデミー賞を賑わせた話題性から、個人的には観ることを躊躇していた作品。
見た目の雰囲気からなんとなく異国の地で暮らすアジア人の生きにくさ、差別を描いた作品かと思っていたが、どっこい!
とても現代アメリカらしい好きな作品でした!

本作は主に3世代の”韓国人”家族の姿が描かれるのだが、その描き分けがとてもいまらしいと思った。

生きがいである農業という”アメリカンドリーム”を掴むため、韓国から移民としてやってきたジェイコブと、そんな夫と衝突の絶えない妻のモニカはいわゆる”韓国系移民”。
彼らの子供であるアンとデビッド、特にデビッドはアメリカで生まれた、正真正銘”韓国系アメリカ人”。
そんな彼らと離れて韓国で暮らしていた祖母のスンジャは純粋な”韓国人”。

安直な表現でいえば”移民”と括られる家族の話なのだが、ひとくちに”移民”といっても彼らはそれぞれ世代、国籍、性別によって立場が異なる。
ただ、立場が違うからといって、それを黒白はっきり付けるのではなく、むしろそれら様々なデモグラフィックフィルターを通じて生じる立場の違いは、グラデーションであり、立場が違うからこそ対話を重ねて乗り越えていく姿を主眼に描くのがよかった。

たとえば息子デビッドは、祖母スンジャとの交流、礼拝堂で仲良くなった白人アメリカ人の男の子との交流など、様々な立場の違う人たちと触れることで視野を広げていくことになる。

また、父親のジェイコブは最初こそ、「アメリカに暮らす韓国人のために韓国野菜を作る」と情熱を燃やす一方、一番近い”韓国人”である自身の家族を少し優先度を下げて見てしまう。
ただ、そんな彼も、一向に軌道に乗らない農業の困難さに直面したり、妻や家族と同行してミサに行ったり、敬虔なクリスチャンであるポールと一緒に過ごしたりしていくなかで、生き抜くうえで本当に大切なものの取捨選択をしていくことに。
”水脈”をめぐるラストには思わずグッと来てしまった。

ジェイコブ、モニカ、アン、デビッドという、彼ら家族の韓国人らしからぬ名前からして、おそらく作り手も意図してこの映画を単純な立場の違いというよりは曖昧さとして描いているのかと思った。
この、立場の違いを、単純に違う者同士として描くのではなく、グラデーションのように交わりうる人同士として描くのは、映画のテイストこそ違えど、『ブックスマート』でいう学校社会や『クレイジー・リッチ!』での広義で”アジア人”の描き方にも通じるような、とてもいまっぽい映画だなー!と思った。

そんな、デモグラ的立場の違いに関係なくアメリカという広大な国に文字通り”根を張って生きていく”ことの象徴としてミナリ=セリが描かれるのもよかった。
劇中、スンジャはミナリについて「雑草みたいにどんな環境でも根強く育つからお金持ちも貧しい人も食べて元気になれる」という。
まさにこの映画に出てくるジェイコブ一家そのもの。
ワンダフル ワンダフル ミナリ ミナリ!


演じるキャストそれぞれよかった。
『バーニング 劇場版』の不気味な演技が印象的だった、ジェイコブ役のスティーブン・ユアンさんもよかった!
妻モニカ役のハン・イェリさん、お顔が日本の女優江口のりこさんに似てたなぁ!!
そして!オスカー受賞したユン・ヨジョンさん!
孫から見た祖母の異質感を絶妙に演じてたなぁ。栗を一旦口に入れてからデビッドにあげたり、花札のことになると口悪くなったり、”山の雫”ことマウンテンデューを異常に求めたり…最高だった笑

主演のスティーブン・ユアンさんは生まれこそ韓国だけど、育ちはミシガン州。
本作の監督リー・アイザック・チョンさんは血筋こそ韓国系ながら生まれはアメリカコロラド州。
という、まさに劇中のジェイコブ家族同様、作り手である彼ら自身、もっといえばいまのアメリカそのものがどういった人種構成で成り立っているか。
そういった意味でもまさに”現代アメリカ映画”!というしかない1本だし、この映画が劇中のセリフの半分以上が韓国語であることを理由にゴールデングローブ賞の作品賞候補から外れた、ということ自体、ちょっといかがなものかとさえ思った。

いや~良い映画でした。
ワンダフル ワンダフル ミナリ ミナリ!
ジャン黒糖

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