stanleyk2001

ミナリのstanleyk2001のレビュー・感想・評価

ミナリ(2020年製作の映画)
3.5
『ミナリ』(Minari)
2022
A24
USA

TO ALL OUR GRANDMAS
全ての我々のおばあちゃん達に捧ぐ

エンドクレジットのこの一行が印象的。カリフォルニアから南部アーカンソー州に引っ越して農場経営に挑戦する家族の物語。とても共感できる等身大の物語だった。

1980年代。カリフォルニアでヒヨコの雌雄判別士をしていたジェイコブ・イ(スティーブン・ユアン)は妻モニカ(ハン・イェリ)、長女アン(ノエル・ケイト・チョー)、長男デビッド(アラン・キム)とステーションワゴンで南部アーカンソー州に移住してくる。

移転先で家族を待っていたのはトレーラーハウス。ハウスを2台連結した細長い家だ。絶句する妻は夫の「雇われている身分の雌雄判別士から自立した農場主になる」という夢に懐疑的だ。

夫婦は養鶏場で働く。ここで資金を稼いで農場を開拓するのだ。

彼らに中古のトラクターを販売したポール(ウィル・パットン)は朝鮮戦争の従軍経験があり韓国人に親近感を持っていて農場を手伝ってくれる。

夫婦は子供達の面倒を見てもらうために韓国から祖母スンジャ(ユン・ヨジュン)を呼び寄せる。ユン・ヨジュンはAppleTVのドラマシリーズ『パチンコ』の主演女優だ。懐かしい。『ミナリ』でアカデミー助演女優賞を取った。

口が悪くあぐらをかいて花札を打つスンジャ。「優しいおばあちゃん」という理想とかけ離れているのでデビッドは「おばあちゃんらしくない」と反発する。

農場経営はなかなか軌道に乗らない。夫婦仲は険悪になって行く。祖母は脳卒中で倒れる。家族はバラバラになるのかそれとも結束して回復するのか。

監督リー・アイザック・チャンはウィラ・ギャザーの『私のアントニア』という田舎での子供時代を描いた自伝的小説に感銘を受けた。そして自分の子供時代をベースに脚本を書いた。「家族、失敗、再生をテーマにした作品。それが『ミナリ』です」

御涙頂戴でもなく大袈裟な描き方もせず等身大の人間の苦闘は心を掴まれる。

そして度々描かれる宗教的要素が印象的だ。

妻モニカは養鶏場の韓国系女性オー(エスター・ムーン)に尋ねる
「ここには韓国教会はないの?」
オー「ここは韓国教会から逃げてきた人たちの来るところ」

海外の韓国教会は韓国人の人脈を広げる互助会的な役割もあるらしいがアーカンソーでは韓国教会がないので韓国人ネットワークも当てにできない。

農場の仕事を手伝ってくれるポールは祖母スンジャが病気になったのは家に悪魔が取り憑いているからだと言って悪魔祓いをする。聖職者ではないから自己流だ。何だか怪しげだが純粋に好意で行なっている。

日曜礼拝の帰りに十字架を背負って歩く男性にであう。ジェイコブは送って行くよと声をかけるが男性は丁寧に断って歩き続ける。キリストの苦難を身をもって共にする行為なのだろう。一見突拍子もなく見えるけど。男性の心の中を想像すると笑い飛ばしてはいけないように思える。

アーカンソーの田舎。人間が少なく自然の力が圧倒的な土地では「神が共にいてくれる」という思いが人間の心を支えてくれるのかなと思った。宗教の原点を見たような気がした。
stanleyk2001

stanleyk2001