華麗なる加齢臭

MINAMATAーミナマターの華麗なる加齢臭のレビュー・感想・評価

MINAMATAーミナマター(2020年製作の映画)
3.9
【テーマ100点、美術50点、邦画20点】
テーマも芝居も素晴らしいのに、チープな美術が気になってしょうがなかった。
同時に、水俣病をテーマにした最初の劇映画が洋画だったことが情けなかった。

「公害」。今の若者にはピンとこなだろうが私が小学生のころは、交通戦争と並び我が国の最重要課題だった。小学生であっても、四日市ぜんそく、スモン病、イタイイタイ病等「公害」に関するニュースを必ず目にしていたし、そのためか公害に関する学習漫画を買ってもらったことを覚えている。特に公害の中でも、ブラウン管に映しだされた、罹患者の姿と「怨」の文字が染められた幟の影響だろう、水俣病は子ども心にも最も恐ろしくそして不気味なものだった。

そんな私が見たこの作品。まず最初に感じたのは、あまりにも美術がお粗末だったことだ。テーマそしてジョニーディプの芝居が良かったにもあり、本当に残念だ。

映画は、例えば宇宙人と恋に落ちるなど「あり得ない」ことが映しだされても、それ外のことが「あり得ること・違和感のないこと」であるから、観る者がスクリーンの中へ引きこまれる。ましてや事実も基にした作品であれば徹底的なドキュメンタリーと間違うほどのリアリズムが求められる。

あの当時、日本人の多くは粗末な木造住宅や長屋に住んでいた。密集したバラックも珍しくなかった。それが、この作品では、海に面したテラスがある石づくりの家だったり、あるいはチッソの社長室が障子で間仕切られていたりと、あまりにも違和感のある美術だった。病院内のシーンでも、ベッドを含め違和感だらけだ。

そして、水俣病のドキュメンタリーは数多く存在するが、劇映画はこの英国作品が初めてである。記録では水俣病の発症は1952年、そして2021年の現在においても認定問題が係争中である。これだけ長期にわたり完全可決していない社会課題であるにも関わらず、邦画のテーマとならなかったことに日本を感じた。ちなみにユージンスミスの「写真集 水俣」の日本版出版は米国版出版の6年後、彼の死後である。