華麗なる加齢臭

サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)の華麗なる加齢臭のレビュー・感想・評価

5.0
【現実は甘くない】
私は今年還暦だ。そして物心ついたころから、ず~~っとBLACK MUSICを聴きづけてきた。また学生時代にはマルコムXの演説集やブラックパンサー党が書かれた本も読むなどし、音楽の背景やBLACK CULTUREへの理解を深めようとした。
それゆえ、この作品のレビューを書くのをためらっていた。思いがありすぎ、いつも以上にまとまりのないものになるのが明白だからだ。

ということで、作品全体のレビューではなく気が付いたことを羅列する。

1 Gladys Knight & the PipsのI Heard It Through the Grapevine、最高。現存する「悲しいうわさ」のライブ映像の中で一番の出来。

2 ヤク中でDVでキザでヤクザな世界一のダメ男David Ruffin。私が50年以上聴き続けている世界で一番好きなシンガー。彼も想像以上に声が出ていた。1969年と言えば既に彼はクスリの虜のはずだが、まだまだハイトーンで聴かせてくれた。Rick JamesのStanding On The Tpoでのコーラスで見せた、ヤク中の姿とは別人。

3 他者のレビューでは、Mahalia JacksonやThe Staple Singers等のゴスペルの評価が多いが、私はなんといってもJesse Jacksonの演説が鳥肌。若い人はご存じないだろうが1980年代には大統領候補にその名前が上がり、またアレサのゴスペルライブアルバム「One Lord One Faith One Baptism」(1987年)は半分は彼の演説だ。1969年、ハーレムのステージに立っていたJesseは20年弱で頂点を極める。。

4 クラビネットを弾きまくるS.Wonder。3年後の1972年リリースされるTalking Bookの萌芽をビンビンに感じた。クラビネットだけじゃなくワウペダル。あのSuperstitionのイントロの謎の解明に半世紀以上必要だった。(笑)

5 The Fifth DimensionのライブとBilly Davis Jr.&Marilyn McCooのインタビュー。このステージの7年後、1978年にYou Don't Have to Be a Starの大ヒット。Marilyn McCooは若い頃もそして今も綺麗だ。

6 この作品レビューでソウルと比較しヒップホップやラップをけなしているのが散見されるが、そいつらに唾を吐きたい。この作品の監督であり、関係者へのインタビューで見事に1969年の空気感を伝えてくれるAhmir "Questlove" ThompsonはTheRoots(ヒップホップバンド)のドラマーだ。この作品は希望に満ちた様に見えるハーレムだが現実は甘くなかつた。そしてその現実の中からヒップホップが生まれるのだ。