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モロッコ、彼女たちの朝のKOUSAKAのネタバレレビュー・内容・結末

モロッコ、彼女たちの朝(2019年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

モロッコの映画は初めて見たかも。

予告編を見て、これは良さそうやなと思ってましたが、その第一印象すら軽々と越えてくるような傑作でした😭

特にラストに至るまでの約20分、ただひたすら親と子の姿を静謐にストイックに撮り続けて、根源的で本能的な「愛」の姿を浮かび上がらせたマリヤム・トゥザニ監督に心から拍手を送りたいです。

とにかく8割方は憮然とした表情をしてて、心に潜む「本音」をほとんど口にしないアブラとサミア。だからこそ、二人のちょっとした表情や視線の動きが大変重要なので、セリフがないシーンでもぜひ集中力を切らさずしっかり見て欲しいです。こんな難役を演じ切ったルブナ・アザバルとニスリン・エラディは本当に凄いです😵

逆に、スリマニの好き好きアピールを物陰で聞いて照れるアブラの「嬉し恥ずかし」な表情とか、ワルダと一緒になって悪ふざけしてる時のサミアの表情なんかは、物語の緊張感を和らげてくれるエッセンスになっていて、それも非常に魅力的でした。

この作品のもう1つの個人的ピークは中盤、サミアがアブラにある曲を聴かせるシーン。これまで数多の映画を見てきましたが、1曲の音楽を聴くというだけのシーンで、こんな演出は他では見たことありません。心が震えました😭

この作品の宣伝ポイントとしては、モロッコ独特の様々な「パン」が出てくるというフード映画的な観点(もちろんそれも魅力的でしたが)に重きが置かれているように感じますが、実際に見てみると、この作品の絶対的な最重要ポイントはズバリ「赤ちゃん」です。ホンモノの赤ちゃん、ホンモノの泣き声によるリアル。

特に後半は、サミアの赤ちゃんに対する思いの深さに自分自身も入り込んでしまって、ラストシーンでサミアが選択したであろう決断には、胸が張り裂けそうになりました😭

ラストの解釈は見る側に委ねられていると思いますが、自分は、サミアはアダムを養子に出す決断をしたと思っています。

非常に厳しく辛く重い決断ではありますが、だからこそ赤ちゃんとサミアの二人きりのシーンにはあれだけ長い時間が必要だったんだと思います。

それでも、我が子アダムの「ぬくもり」だけは絶対に忘れず、ずっと心の奥に引きずって生きていくんだというサミアの母親としての強い覚悟と尊厳、そして、そもそも未婚の母を容易に受け入れようとしないモロッコ社会への痛烈なメッセージをラストシーンに感じました。
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