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ナイトメア・アリーのRenのレビュー・感想・評価

ナイトメア・アリー(2021年製作の映画)
2.5
予告もロクに観ず、ES執筆の隙間を縫ってなんとかアカデミー賞授賞式前に滑り込みで鑑賞。劇場初デルトロ、元ネタ『悪魔の往く町』は未見。

序盤の見せ物小屋の圧巻の美術、ちょっと目を背けたくなる残酷描写に、デルトロだあ〜!と小躍りしたのも束の間、全体的にずーっとほんの〜りタルさを感じてしまったのも確かだった。
第一幕と第二幕でガラッと空気感が変わるのだけど、特に後半はゆったりとした展開が続き、ちょっと集中が切れた。前半の異世界感が完全に消えるので、後半で一回興味がリセットされてしまう。
終盤30分で再び、これこれ!とテンション上がるくらいにはブーストするのだけど、作品の評価をさらに盛り返すほど挽回はしてこなかった。某人の化けの皮が剥がれきった瞬間のイヤさは最高だったけど。

150分間に通底して流れるのは、toxic masculinityと父子にまつわるエピソード。
他人より優位な立場でいたい/支配したいという願望がキツい形で露呈していくスタン(ブラッドリー・クーパー)。金と成功のために他人をカモにし、パートナーまでもを掌握しようとする堕ちた人間のキモさ。そもそも「読心術」がまさにそういう芸。
書き出してみるとエグみは十分にありそうなのに、ハマりきれなかったのが残念だった。第二幕を引っ張るエピソードが基本一つしかないのに150分も時間をかけるようなものだったとは思えなかったからかもしれません。
個人的白眉は超序盤の、ギークが逃げ込んだお化け屋敷の美術。

正直、作品賞にノミネートされたのは『tick, tick...BOOM!』ではなくこっちなのか....と若干の腑に落ちなさが残る結果となってしまった。



《⚠️以下、ネタバレ有り⚠️》










騙された!と騒ぐグリンドルに一瞬同情しそうになるけど、直後に一瞬DV気質な側面を覗かせる。奥様が死んだのお前のせいちゃうんけ?toxic masculinityのスパイラルが止まらない。
スタンも、彼の父親も、グリンドルも、ギークを調教するクレメントも。人間の “支配欲“ みたいなものをあらゆる角度から浮き彫りにする映画なのだと思った。現代に古典作品を引っ張り出して、普遍的なメッセージを訴えてくる作りは『パワー・オブ・ザ・ドッグ』と同様。

オチは、流石にこうならなかったら嘘だよな....?という展開にしっかり持っていっていたので◎。冒頭で父親を殺害し人生の谷底からスタートしたスタン、一度は上り詰めたものの再びラストの殺人で堕落、そこから再び上り詰めることはないのだという納得感。あとは怪物になるだけ。“どん底からの再出発“ と “ギークの永久生成“、二重の意味での円環構造。円環構造は『パンズ・ラビリンス』『シェイプ・オブ・ウォーター』にも通ずる、彼の一つの特徴のように思える。
全てのギークに彼のようなバックグラウンドがあるのかと想像するとそれもまた怖い。

やっぱりデルトロ作品は、『シェイプ・オブ・ウォーター』の猫のシーンみたいなのが好き。今作で言うところの鶏を食いちぎったり、夫婦が拳銃で心中したり、スタンが車で轢き殺したりするところのギョッとするキメはどれも良かった!
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