社会のダストダス

ファーザーの社会のダストダスのレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
4.7
※ゴールデンダストダス賞2021(男優賞)

うちの父も80になり、最近多少ボケたことを言うようになったし、やかんの火をつけたまま居眠りすることもあるので、家に帰ったら私のフラットが燃えているんじゃないかと心配する今日この頃。

アンソニー・ホプキンスがアンソニーを演じる映画。「1937年12月31日金曜日生まれ」と、生年月日を曜日まで正確に言ったのは、何月何日が何曜日だったかを瞬時に答えられるという彼自身の特技から来てると思われる。「二人のローマ教皇」に続く連続ノミネート、しかも今年は受賞という80を超えても現役バリバリ全盛期のサー・アンソニー・ホプキンスの神髄を見せつけられた。

語り手の情報があてにならないという、認知症体験映画。アンソニーが本当はどこにいるのか、誰と話しているのか、どれだけ時間が経ったのか1日の切れ目のない感覚、認知症の人が持つ混乱と恐怖をそのまま視覚化。
まるでマトリックスの中にでもいるようなデジャヴ、自分の信じた記憶の矛盾が気持ち悪さを残し、納得できないまま話が進んでいくので着地点が見えず、漠然とした恐怖を煽っていく。
自分のいる場所、彼の「フラット」が土台から崩れていく感覚を味わうサスペンスといえる。ラストのアンソニーの悲痛な訴えに涙腺決壊。

今年のアカデミー賞の授賞式で主演男優賞がトリにされたりと、きっと誰もがチャドウィッグ・ボーズマンの受賞を想定しての演出だったと思うので、アカデミー賞ってちゃんとガチの選考だったんだなーと意外なところで感心してしまった。サー・アンソニーは本当にこのまま生涯現役でいきそう。

そういえば亡くなった田舎のばあちゃんは、介護施設を訪問した時に「昨日ベランダで親子3人が焼身自殺したのよ!」と言ってたことがあったので、この映画のアンソニーと同様かあるいはネクストステージだったのかもしれない。本人はすごく楽しそうだったけど。