あーや

野獣の青春のあーやのネタバレレビュー・内容・結末

野獣の青春(1963年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

セピア色の人混みに濃いエメラルドグリーンの文字。オープニングから「この映画絶対おもしろい!」と確信しました。今年2月に亡くなった鈴木清順監督の「野獣の青春」です。
清順監督の追悼特集では公開される作品が全て35ミリフィルムで観れる絶好の機会。逃せません。

事件現場の捜査シーンでセピア色に目が慣れてきた頃、一点醒めるような花の赤。途端に画面全体がド派手なカラーの都会に切り替わり、ドアップで映る女の笑い顔と道端では帽子をかぶった男が誰かを蹴る殴る。そしてバックにかかるのはスピーディーなジャズ。か、かっこいい!清順監督、半端ないっす・・。
私、本作の宍戸錠が好きでした。シャワーを浴びた後、浴室から裸で出てきた時の肩から背中の筋肉!美しい!ええわー。(リスみたいなほっぺたも相変わらずチャーミングやし♡)その体つきで想像できる通り喧嘩も強いのですが、力だけではなくて反射神経が鋭くて頭も切れ者ってところがただの殺し好きの男ではない雰囲気を漂わせていますよね。いきなり取り出した散弾銃はすんなり似合っているし、あの渋くて濃い顔は全編でかかるジャズとの相性もとても良い。
脇を固める女優も素晴らしい。ネグリジェ姿でほとんど突っ立っているだけの星ナオミはコケティッシュな魅力でピュアなヤクザの三波を一瞬で虜にし、渡辺美佐子は編み物教室を営む未亡人の大人しい女と男を騙すヤクザの二面性を演じきっている。傷を負った三波を手当するジョーを背後から見詰める渡辺美佐子の冷たい目線にはゾクゾクしました。同じ日活作品でも中平康監督の映画では多分観られない渡辺美佐子の悪女姿でしたね。
清順監督自身が「この作品で清順美学が開花した」と仰っているだけあって、魅せ方の中でも特に画にこだわっていることがよくわかる。冒頭のごちゃごちゃしたカラフルな都会、夫婦の鞭打ちシーンでは背の高いススキと舞い上がる黄色い砂嵐、取引の密会時には雨の降りしきる黒い夜、車内に投げ込まれた発炎筒からは大量の赤い煙、ナイフで抉られたジョーの指から流れる赤い血、実際の画は見せずとも真っ赤を想像させる「すだれ状に切り刻まれた顔」、友の死は椿の赤に始まり椿の赤に終わった。ハードボイルドな展開と力強いアクションで映画の世界に惹き込みながら、しっかりと色で遊んでいる。
セットも戦闘機の模型が所狭しと部屋中に吊された部屋や、「麦」という文字が壁に掛かった日比谷ホテル、横に長い作りのコールガールの電話室なんて電話一つのデザインまで作り込まれている。そんな舞台の中でも面白いのはヤクザの事務所です。ジョーが潜入している野本組の方はナイトクラブの客席とその裏にあるヤクザの部屋がマジックミラーで仕切られています。裏部屋ではジョーが乗り込んできて殴り合いが始まり、客席ではピンク色の大きな羽が鮮やかなストリップショーが始まる対比が面白い。そしてジョーがスパイを提案するために訪れた敵対する組の事務所は、なんと映画館のスクリーンの裏!取引する場面では背景にモノクロ映画が写っていたのです。カラー映画の中にモノクロの映画のエンディングロールを観るとは・・・斬新すぎます!こんな粋な演出も清順監督が考え出したのでしょうか。センスが良過ぎる。
ただ単にアートな映画を気取っているのではなく、わかり易いストーリーとハードボイルドアクションでしっかり楽しませてくれる。こういうバランスのとれた邦画を新作でも観たいですね。
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