未島夏

まともじゃないのは君も一緒の未島夏のレビュー・感想・評価

4.0
自分は子供の頃から今に至るまでずっと『変わってる』と言われることに何処か喜びや価値を感じて生きて来たから、『普通』に収まる為の苦労とか、不満とか、葛藤はそれ程持ったことがないし、収まりたいとも思わない。

でも、普通に縛られる苦悩を出来るだけ早く知った方が、歳を取ってから孤独である可能性は少なくなりそうにも感じて、『普通』に縛られたい、収まりたいとまでは思わないものの、そういう考え方を少しだけ羨望している。



そういった気持ちもあったので、『普通』になりたいと願って的外れなのか何なのかよく分からない事を色々とやってみるこの映画の二人が、とても愛しかった。

まるで『サザエさん』が始まったかの様な雰囲気運びの音楽も、二人の愛しさをより俯瞰的にさせていて、微笑ましくなる。

激しい理屈のラリーを繰り広げる二人の会話が中心なのに、憑き物が取れた様な軽やかな気持ちで劇場を出る事ができるのも、二人のキャラクターに対する愛情を映画全体に感じるからだろう。



二人の掛け合いを長回しで大事に映す分、カットの間延びがどうしても出てきて若干ぎこちないテンポになる所もあるが、それも含めてちょっとクセになる様な脱力感がある。

カラオケでの歌唱部分のカットも、理屈ではあんなに長く使う必要は無いのだけど、観客にとっては勿論、作り手側にとっても理屈抜きで「見たい」と思えるものを優先している感覚がある。

あの歌唱シーンの可愛さはきっと老若男女問わず観た人全員を幸せにしているし、そういった無意味に意味を見い出す演出に、とても温かさを感じた。

好きという感情に理屈や理由を求める二人を描く中で、無意味へ価値を持たせる演出を行うという、本質的な部分も汲み取れる。

もっとも、その本質を分かりやすく描いたシーンもちゃんと存在はしているのだけど、言葉にされていない部分にもその本質が行き届いているのが大きい。



一つだけ挙げるなら、初め二つ程の尾行シークエンスが何を見せられているのか疑問に感じるスレスレだったので、二人の行動に結び付く強い動機はもう少し早めに提示してしまうべきだったと見受けられる。

そこが唯一、演出でカバーし切れなかった作劇の緩さかもしれない。



『普通』である事の価値や意義を探し求める二人を観て気付かされるのは、『普通』こそが一番複雑で、理屈っぽいという点である。

いちいち言葉にしてられない複雑な思いやりとエゴの中で成り立つ『普通』と呼ばれる秩序が、誰かの正直さや誠実さを弊害と捉え『まともじゃない』としてしまう。

そんな秩序に疎外された正直な人たちを、『普通』の中身を暴く事で逆説的に肯定していく。

『普通』に見える人も、『まともじゃない』様に見える人も、理屈ではない部分で共通していて、それは言葉に出来る様な簡単な代物ではなくて、だからこそ愛しい。

現に、成田凌さん演じる大野は常に真っ直ぐでブレていないけど、その描き方によって偏屈にも誠実にも映る。

そんな姿から確信を持って言えるのは、『普通』でも『まとも』でもなくたって、純粋に相手の事を第一に考えられる人は、絶対的にカッコいいという事だ。

それで十分じゃないか。
僕はあなたみたいになりたいです、大野さん。
未島夏

未島夏