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ペルシャン・レッスン 戦場の教室のmityのレビュー・感想・評価

4.0
極限状態の中、偽の言語を創作し記憶する···命懸けのペルシャ語教室。混乱の時代だからこそ成立しただろう奇抜なこの話に、終始ヒヤヒヤとヒリヒリとさせられた。

書き留めておくことは出来ず、ただ暗記していくしかない架空の言葉。デタラメな文字の羅列にデタラメな意味付けをして教えては、自身も記憶していかなければいけない綱渡りの日々が始まった時、こんなことが上手くいくのだろうかと、私も思った。
だから、1500語ほど覚えた···とコッホ大尉が言った時、ゾクリとした。レザは、いやジルは、そんなにも単語を創り上げたのかと。

その架空の言葉で会話をするジルとコッホ大尉に漂う、緊張感以上の親密感。支配する者とされる者を超えた不思議な繋がりを感じただけに、ラストのコッホ大尉には同情を禁じえない部分もあったけれど、でも、所詮は架空の言葉で成り立っていた関係で。ジルが創り上げた単語の数々、その中にいる人々の方をどうしたって思ってしまった。

短編小説から着想を得て制作されたという本作。でも、生き延びるためであればあり得たかもしれないと思った。嘘みたいな真実(ほんとう)の話はきっと幾つもあるだろう、戦争なのだから。


#123_2022
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