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ありあまるごちそうのTSのレビュー・感想・評価

ありあまるごちそう(2005年製作の映画)
3.6
【日々廃棄される食料】77点
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監督:エルヴィン・ヴァーゲンホーファー
製作国:オーストリア
ジャンル:ドキュメンタリー
収録時間:96分
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世界では120億人を養える食料が日々生産されているのに、実際は一日10万人の餓死者が出て、10億人が栄養失調であるそうです。この矛盾に真っ向から挑んだのが本作です。あらゆる食の生産現場に飛び込み、インタビューをするというドキュメンタリー映画です。『いのちの食べかた』のシーンにもあったような淡々とした生き物の解体シーン、そしてとある大物の登場など中々衝撃的です。日本は世界有数の飽食国家であるため、見る価値がある、いや、見るべき作品であると思われます。

冒頭に大量に捨てられるパンの映像から衝撃を受けます。もう多いなんてレベルではないです。一体これで何人の人を養えるのかと思わずにはいられません。廃棄される理由は恐らくほんの些細なことであると思われるので、もっと食べるのに苦しんでいる人に与えるべきなのです。しかし、間違いなくそんなことはしない。何故なら、金にならないからです。廃棄するだけでもお金がかかるのに、それを配給するとなればさらに費用がかかります。おまけに食う側はもちろんお金は払えません。このような不条理な連鎖が続くことが容易に予想できるため、よほどの聖人でもない限り、廃棄物を貧困層に分け与えることなんてしません。結局のところ、金のある人が贅沢をする。貧困層の立場から全く物を言えてない終盤の人物の発言には正直ドン引きしました。あんな考えで金持ちになれるのならば、別に自分は一生なれなくてもいいやと改めて思いました。

今作のもう一つの見所というかポイントは、鶏が「食べ物」に変わっていくシーンでしょう。これは異色作『いのちの食べかた』に似たシーンでありますが、卵から生まれたヒナを成長させ、そして「食べ物」に変えていくこれらのシーンは衝撃的です。当たり前ですが、我々人間が生き長らえているのは、こういった生物の犠牲があるからです。しかし、その犠牲になる瞬間は執拗に世間から隠されます。食の有り難みを改めて理解するために、ショッキングな映像ながらも見ておくべきだと思います。

飲食店でバイトはしたことがありませんが、やはりそこいらの飲食店でも平気で食べ物は廃棄物として処理されているでしょう。顧客により美味しいものを!という企業側の野望が廃棄物を増加させているかと思います。その結果、一流の食品だけが店頭に並び、二流以下の欠陥食品は廃棄されてしまうのです。確かに企業を成功させるためにはこれくらいのことはしなければならないのかもしれませんが、極めて反道徳的であります。しかし、人間の欲求と道徳観というのは正直なところ相反する代物です。欲求まみれのこの世界において、すべての人に食べ物を!という道徳観は果たして通じないのでしょうか。。

個人的には『いのちの食べかた』の方が衝撃的でしたが、こちらも中々良い味を出していて、見る価値のある作品だと思いました。
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