スーパーの店長・青柳は万引きをする女子中学生を目撃する。逃げ出す中学生を追いかける青柳。そして不幸な事故死。娘を失った父親・充は荒れ狂う…。娘を失った父親の心の空白。そこから来る暴走。観る前にイメージしていたのはそれだ。しかし、実際に観ると「空白」には多様な意味が込められていた。主人公・充は決して理想的な父親ではない。離婚した元妻に娘の花音の事を聞かれて充は何も答えられない。失って初めて知る親子の関係性の「空白」。充の怒りは自分への怒りでもあり、それが事故に対する怒りと増幅されて青柳にぶつけられる。加害者の立場に立たされた青柳はあまり感情を表に表さない現代的な青年だ。申し訳ない気持ちを持ちながら一方で納得出来ない思いもある。リアルな感情の動きが素晴らしい。特に海苔弁のシーンでの怒りに声を荒げる場面は追い詰められた心理表現として秀逸で感心した。心の空虚さを埋める為に「正しい」行動に邁進する草加部。事件を報道するマスコミ。死によって露わになる社会の暗闇。そして微かな光。スッキリした終わりではないかもしれない。しかし、絶望の中で折り合いをつけようとする人間の姿に希望を感じた。
