ヤクザが合唱部の中学生に歌を教わるという奇抜な設定。しかし、決してコントでは無い。しっかりと映画なのが素晴らしい。登場人物達は決して笑わせようとしている訳では無い。それぞれの立場で大真面目に振る舞い、生きている。それが客観的に観ている観客の目にはズレを感じて笑える。映画におけるコメディの理想型ではないか。綾野剛演じる成田狂児。陽性な男で適当な事ばかり言っているお調子者である。しかし、薄っすらとヤクザの怖さを身に纏っている。驚くべきなのは実際の暴力描写としては殆ど無いという事だ（厳密には一回あるが激しい描写では無い）つまり演技の力で危険な匂いを醸し出している。絶妙で魅力的な存在感に感心した。もう一人の主役、岡聡美。合唱部で頑張る平凡な中学生がヤクザに振り回される。いわばボケの成田狂児に対するツッコミの立場である。しかし、漫才的な大袈裟なツッコミではなく、普通の中学生というキャラクターは決してはみ出さない。受けの演技の素晴らしさ。演じた齋藤潤の俳優としての才能に目を見張った。ヤクザと中学生の奇妙な関係性の愛らしさ。近年のコメディ映画の中でも出色の作品だと感じた。
