Swallow／スワロウのカルダモンのレビュー・感想・評価

富豪の家に嫁ぎ何もかもを手に入れた取り柄のない妻ハンター。しかし思い描いていた幸せとは程遠く、常に疎外感や生活格差を感じながらの結婚生活にストレスを感じている。それでも子を授かり産まれる時を心待ちにしていたある時、夫の両親を交えた食事の席で氷を噛み砕きたい衝動に駆られる。

目の前に置かれたグラスの水。周囲の音は消え去り、氷がキュウキュウギシギシ音を立ててゆっくりと溶けていく芽生えの瞬間。以来、彼女はストレスが生じる度になにか喉に異物を〈飲み込む＝Swallow〉ことで精神的均衡を保つ、いわゆる【異食症】になる。

飲み込んだものは食道を通過し、胃腸で消化されないまま排泄され、排泄物から飲み込んだ異物を取り出して丁寧に洗浄し、丁寧に飾る。彼女の誇らしげな達成感が漲っており、唯一の自分のありかになっていた。トイレという誰にも侵害されることがない個室で自らを守るような行為は、緊縛から抜けられる唯一のセーフティゾーンであると痛いほどに伝わる。

夫も彼の両親も取り巻く周囲の人間も、誰もが私のことには関心がない。お腹の中にいる命でさえ「将来会社のCEOに」などとまるで所有物のような扱い。妊婦である自分の事はまるで眼中になく、子を生むためだけに存在している入れ物のような屈辱。表面上では気遣うようなそぶりにかえって溝は深まるばかり。異食症である事を止められない自分を抱えながら。

物語はさらにもうひとつふたつ深淵に向かうことになるのだが、究極的には飲み込んでいくことで解放される女性の話。
強烈なメッセージだし、演出の手堅さや語り口の巧みさについて文句はない。でも私はこの映画を吞み下すことができなかった。作品としては面白いのに体が拒否してる。この感じは一体なんだろうかと考えるのだが、うまく言葉が出ない。たぶん、もっと別の歩み寄りや解決方法がなかっただろうかという事なのかもしれない。彼女の選択と決断に勇気付けられた人も居るのだろうし、視点を変えて物事を映し出すのは映画の力だとも思う。それでも喉にトゲが刺さったように異物感が消えなかった