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劇場版 きのう何食べた?のmaverickのレビュー・感想・評価

劇場版 きのう何食べた?(2021年製作の映画)
4.2
ドラマ『きのう何食べた?』の劇場版。2021年公開。原作は『モーニング』で連載されている、よしながふみによる人気漫画。


基本はドラマ版と同じ。ほのぼのとした作風であり、温かみを感じさせる微笑ましい作品だ。ドラマの延長でしかなく、しかも本作に関しては劇場版特有のスケールの大きさもない。テレビスペシャルで十分では?と思わせる内容ではあるが、重要なエピソードを中心に構成されていて見応えある。ドラマ版のファンであれば間違いなく満足出来る。自分もドラマ版が好きで、この劇場版も楽しみにしていた。期待通りで満足だ。

ゲイのカップルの話であり、いわゆるLGBT問題が主軸のテーマとなっている。その中でも今作は親との関係性が主であり、ゲイであるがゆえに親の期待に応えられない苦悩が描かれる。そして二人は決断する。一番大切な人のため、自分自身の本当の幸せのために行動しようと。それがとても感動的だった。我々はそこで気付かされる。これは何も同姓カップル特有の話ではないのだと。親は子供の幸せを願うが、その形が子供と一緒とは限らない。親を思う気持ちは大事。でも親のために自分の人生を犠牲にする必要はない。親に遠慮することなく、自分の幸せを選んで良いのだ。この二人の生き方に勇気を貰える人はたくさんいると思う。心に染み入る話だ。

主軸にしっかりとしたテーマがあるから全体的には良いのだが、ギャグパートでは浮いているところもある。演出が冴えている部分とそうでない部分との差を感じた。その中で安定した演技で引き付けるのが、主人公の一人、ケンジ役の内野聖陽。ドラマ版でもそうだったが、本当に見事な演技。シリアスなシーンでも、コミカルなシーンでも全くぶれない。彼のパートでは浮いているシーンがほとんどなかった。自分がドラマ版にハマるきっかけになったのも彼の演技に魅了されたからで、本作を良いと思ったのもそれが大きい。期待以上のものを見せてくれた。

本作は近年流行りの「食」ものであり、それも大いに魅力。ちょっと重たい雰囲気を和らげたり、逆にぐだぐだになっているのを引き締める効果として作中で使われている。「食」というのは生きる上でなくてはならないものであり、上記のような効果で安定した精神状態をも生み出してくれる。シロさんが作る料理をケンジが美味しそうに食べるのを見ていると、人生でどんなことがあってもご飯をちゃんと食べてさえいれば何とでもなるんじゃないかなと思えてくる。大切な人が幸せそうに食べているのを見る喜びは自分にも元気を与えてくれる。食べることは生きることの基本であり、そこに喜びがあるかどうかで人生の豊かさにも繋がるのだな。


劇中の言葉が印象的で、いろいろと学びがある味わい深い作品。西島秀俊も内野聖陽も二人ともかっこいい俳優だが、作中ではその辺にいそうなおじさんの雰囲気を醸し出しているのが良い。こんな風に自然と歳を取るのも幸せと、そう思える話だった。シロさんとケンジの、二人の人生を感じさせる。やっぱりこれは良い劇場版。スピッツの主題歌もぴったりだった。シーズン2も作ってほしい。
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