シネマスナイパーF

君が世界のはじまりのシネマスナイパーFのレビュー・感想・評価

君が世界のはじまり(2020年製作の映画)
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おかしな映画だと思う
青春映画としてはね
ふくだももこ監督の優しい人間性が滲み出てた
とにかく優しい映画


主要登場人物のうち、縁と岡田を除いた他の少年少女は明らかに「普通」ではないよね
母親に堂々と喫煙を認められてること、親父の再婚相手と関係を持っていること、親父が家事やり始めたから母親が出てったこと、母親が消えて親父が精神的に参って行動にも影響が出てること、その全てが、自分の生温い人生経験で判断すると「普通」には見えない
この物語は、そんな彼らを「大丈夫!青さってのは特権!安心して頑張って生きろ!」と優しく丸め込むことが狙い、なのかなと自分は思った
現にメイン登場人物のひとりに「あいつも俺たちと同じで普通だったんじゃねえのか、学校来て授業受けて…」的な台詞あるし
オナラを正当化すんなという台詞も出てきますがまさしくそういうことで、ちょっと悪い言い方になりますが、もがき苦しんでる思春期の青さを人生経験として正当化してやろうという大人の優しさが溢れ出てる
ふくだももこ監督自身の前作であるおいしい家族同様、所謂「普通」とは違う人生を歩む人々を優しく包み肯定することで、映画内の幸せを観客に共有させるハッピーな青春群像劇となってるんじゃないでしょうか
それぞれがそれぞれに出会うことで世界を知る青春を描いているし、My name is yoursの綺麗な回収にはシビれた

このように、この映画の狙いは、様々な人生あるけどみんなそれぞれ頑張って生きてんねや!おかしいことやない!どこにでもある青春なんや!と包み込むことなので、映画自体のテンションも過度に盛り上げたりしないわけです
そこがこの映画の魅力というか、特色というか
陰鬱な鬱屈の溜め込みや性的なしがらみなどのまあ痛々しい嫌な空気を淡々とやや薄暗く描いてブルーハーツで若干強引に包み込むという
確かにこういう青春映画が出てきたことは強烈で、若い感性を迸らせることができるうちにしか作れないものだと思う
ただ、おかしなバランスも感じる
登場人物の抱える問題は家庭の事情がほとんどで、しかも高校生らしい高校生独自の問題とは別に決めつけられないよね?
もちろん過去にそういった物語がなかったわけではないでしょうけど、高校生の青さを表すために使い、高校生という限定的な歳頃の物語にし、大きな起伏を起こさずあたかも高校生の日常として抑えて描くって…これ、ぶっちゃけかなりの冒険だと思うよ
所謂その辺の高校生の青春として受け取ることは難しい話なのよ
強烈で具体的なエピソードを持たせると普遍性は落ちるから、普通の日常として描こうとする作劇と実は食い合わせがかなーり悪いと思うのよ
別にその作劇だと青春映画じゃなくなる、と言いたいわけではなくて、昨年の傑作メランコリックは誰がどう見ても「普通」ではないことを「普通」として描いてたけど、間違いなく青春映画だった
社会のダークな領域でセカンド青春を過ごすという、誰しもが必ず通る道ではない物語のため、彼らの感情を自分の人生経験へ自由に置き換えるタイプの映画だから
高校生に限定したことにより逆に自分と重ね合わせにくくなってしまい、青春映画として若干おかしなことになってる気がしてしまう


ちょっと別の映画の話させてくれ
ポスト桐島大本命という記事がありましたが、桐島の名前を出すのは安易すぎるんじゃないか
桐島がなぜ歴史的傑作なのかを読み解けばそのわけは分かるはず
桐島に登場する少年少女のほとんどは何か特別な問題を抱えていたりはしない「超絶普通」に高校生活を過ごしているだけの連中として描かれていた
桐島という男が部活を辞めた、それだけで連中にあれだけのドラマが生まれるという面白さ
誰もが誰かに自分を重ねられる普遍性を持ちながら怖いほど青さを描いた「普通」の高校生たちの青春群像劇として、青春映画として完璧だったんですよ
だからごめん、失礼な話になってしまうけど、劇的になるような要素をわざわざ付け足した人物たちによる青春群像劇が桐島に肩を並べるのは相当難しいだろうし、そこまで至ったかと言われるとそうは思えなかった
すいません
悪い映画と言いたいわけでは無いですよ!!!


滅茶苦茶長くなってしまいました
でもそんぐらい熱こもってます
ふくだももこ監督、松本穂香主演映画ですから
松本さんはわたしは光をにぎっているからそうですが、受け身の主演という難題を素晴らしい空気で体現してて本当に惚れる
監督の書籍の映画化ですし、かなり個人的な作品であったのは間違いないです
今後も期待しています!!
松本さん!がんばれって言われて悶えました!がんばります!!