【まとめシネマ】#644
【まとめ】
* 新たな概念から生まれる欲求
* 痛みと叫びで伝える生命
* 強烈に神秘的なドキュメンタリー
本作は第74回カンヌ国際映画祭で、最高賞(パルム・ドール)を受賞した異色の話題作。ちなみに過去の受賞歴は「パラサイト 半地下の家族」「万引き家族」「アデル、ブルーは熱い色」など。
アガト・ルセル演じる本作のヒロイン、アレクシアは、幼少期に交通事故に遭い、頭蓋骨にチタンプレートを埋め込まれた。それ以来、車に対して異常な執着心を抱き始める。大人になった彼女は、モーターショーのショーガールとして踊る一方、シリアルキラーとして次々と人を殺めていた。
本作で重要なのが、作品の中で定義している新たな概念。
それが「車とSEX」ということだ。
車に男性器が付いているわけでもない。車のパーツを男性器に見立てて性行為を行う訳でもない。作中でも詳しく定義していないこの概念を理解しないと、本作も理解できない。
車とSEXをしたアレクシアは、妊娠してしまう。
前半はセクシーでバイオレンスな彼女が楽しめるのだが、後半になると、成長する未知の生命に戸惑いながら、痛みと戦いながら、叫ぶ。この叫びは、男性には分からない陣痛や出産の痛みを、ダイレクトに伝える。
なぜ本作がパルム・ドールを受賞したのか。その答えは「立派なドキュメンタリー」だからだと思う。
その強烈な世界観と、エログロ、神秘的な生命の誕生を目撃した瞬間、この作品が愚行ではなく、傑作だと確信する。