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ジョン・ウィック:コンセクエンスの海のネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

始まって5分ほどで「最高」の賛辞に代わる涙が出ました。馬に乗り走っている3人の人間に命中するまで何度も何度も拳銃の引き金が引かれるが、ジョン・ウィックはその中の1発たりとも馬には当てなかった。それを見て、あと残り160分くらい何も心配ないと確信できました。わたしは本当にジョン・ウィックの弛むことない真っ直ぐな精神と、されど死に物狂いで無暗であざとい戦い方が大好きだ。技術よりも怒りによる力がすべてで手に取ったものを片っ端から武器にして組み敷かれたら噛み付くことさえ躊躇わない勢いと荒々しさが大好きだ。彼の敵に回る人間のほとんどが彼よりも優れた何かを持っているが、常に執念で優っている彼にだけ運命は味方し続ける、動物を絶対に殺さず殺させずされど人は玩具のように破壊され死んでいくのがこのシリーズの性(おかげでわたしのねこは興味津々に観ていた)、銃弾を絶対に通さないファンタジーすぎるスーツによってゲームのハードコアとかナイトメアとかインフェルノモードに等しい戦闘が叶えられているこの完璧な均衡、一人でも多く殺して行ってくれと頼まれたあとにオーバーキルし続けるのなんかもはやパフォーマンスの域で、出てくる人物の悪役を含めた全員が最高のいい顔をしていて、2時間半と少し息も忘れるほどのめり込んで観て、わたしにとって『キル・ビル』に及ぶほどの興奮だった(キアヌが「斬りたい鼠がいるから」と言っているのを聞きたいがジョン・ウィックはネズミ1匹さえ無傷で帰すことだろう)、そして腰に巻いたベルトという最後の武器を手放したあとのジョン・ウィックの姿にわたしたちの誰もが釘付けになったはずだ。彼の世界が静まりかえる、見つめるべきものなどないから彼は目を閉じ、語るべきことなどないから彼は黙り込む、わたしたちが見たかったはずの何かは彼と共に姿をくらまして、待ってほしいと頼む間も無く遠ざかっていく。わたしはずっと、この物語は、「復讐に終わりはない」「だから無意味だ」という言葉にあらがうために、復讐が終わるまでを描いているのかもしれないと思ってきた。だけど今作でジョンが浮かべる表情の、何か底知れなさを見て、これを物語と呼ぶべきなのかどうかさえわからなくなった。あれは、あのかおは、エネルギーそのものだったはずの燃えるような怒りを、もういつでも手放せるんだという、とっくに消えかけてるんだという、そういう顔だった気がする。最後まで彼は奪われる人だった。奪われる人であることを憎まれる人だった。復讐は何も生まなかった、何も返ってはこなかったし新しい安らぎも見つからなかった、復讐は彼を一瞬たりとも救いはしなかった、彼は永遠に恐怖と孤独から解き放たれることはなかった。けれどただそれだけが彼を生かしていた。それは物語じゃなく、生きている一人の人間の、人生と呼ぶべきだったと思う。わずかな希望さえ絶たれたのはもうずっと前のことだ、彼は最後に絶対に返事が返ってこないひとの名前を呼ぶ、ジョン・ウィックは自分自身から逃れられることはなかったのかもしれないが、わたしにとって彼はずっと悲しいほどやさしいひとだった。
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