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ヤクザと家族 The Familyのdenizのレビュー・感想・評価

ヤクザと家族 The Family(2021年製作の映画)
4.0
「俺にとっての父親は、オヤジだけです」

こういったジャンルで、こんなにも涙腺を抉られたのは初めてで、正直戸惑い。
20年の時の流れとともに描かれる、寂しさを抱えた人々の宛名の無い手記のようだった。

因果応報、自業自得と言ってしまえばそれまでなのかもしれないが、裏社会から足を洗い、やっとの想いで手に入れたささやかな幸せを、悪意ですらない軽率な行為がぶち壊してゆく。
正直、ある種別世界に生きていると思っていた人々を、こんなにもリアルに感じられてしまった。
同じ時の流れの中に行き、同じ社会で営み、生活をし、同じように喜怒哀楽を抱えている。
誰かを大事に想う心は誰にだってあるのだ。

申し分ない役者陣のなかで、若さ溢れる磯村勇斗が新時代を見事に体現していて印象的だった。
彼が舘ひろしの年代に差し掛かる頃、世の中はどのように様変わりを遂げているのだろう。

強いていえば、女性枠はやはり「夜の街関連」なのかと。
もちろん尾野真知子演じる役どころの心情にはグッときたし、綾野剛演じる主人公との関係が深まっていく流れも自然でとても好きだった。
なのでこれはけして今作への不満とかではなく、主人公を裏社会に設定した映画において、たまには広義の意味で共に闘うような女性像も観てみたいなぁというちょっとした我儘である。

血が繋がらなくても家族になれる。
数多の映画で見掛けてきたテーマではあるが、こんなにも切実に、甘さもなく、理想論ではなく結果として突きつけられたのは、初めての経験だった。
血は繋がらなくても、彼らはまさに家族であり、生きる意味だった。
自分が晩年を迎える時、そう思える存在をどれ程持てるだろうか。
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