はる

あのこは貴族のはるのレビュー・感想・評価

あのこは貴族(2021年製作の映画)
4.6
『本気のしるし』以来、出演しているのを観ると「あ、石橋けい」と反応してしまうので、冒頭のシークエンスから楽しいものになった。
乗客である華子に話しかけるタクシーの運転手の内容で彼女の素性が窺い知れるという導入は親切でもあり、その応対で彼女がどういう人間なのかも軽く示される。静かなトーンはそこで描かれる上流の家族の生活態度をそのまま表しているようでもあった。
そういうトーンは全体に及んでいるのだけど、それがこの作品の魅力だし、登場する女性たちの心情に思い至るように誘ってくれる。
原作が女性作家で、監督も女性というのは『私をくいとめて』もそうだし、またこうして傑作が観られたのは素晴らしい。

ネタバレになるが、華子が婚活(庶民的な表現だが)を進めるなかでのあの見合い相手や居酒屋での成り行きが面白い。まずコミュニケーションが取れない医者がいきなり連写を始めるくだりがあって、その次はトーク力に特化したような関西人。極端すぎて笑うよりないのだけど門脇麦が絶妙な困惑ぶりで、あの汚れた便器のショットなどもコミカルなのにどこかシリアスなのがユニークな仕上がりになっていたと思う。後からジワるんだけど。

また今作では姉妹がお揃いの和装をしていたり、和室での正式な所作みたいなものが描かれていて日本人でさえも驚きがある。と同時にあの所作にはなんとも言えない抑圧を感じさせるが、それは狙いのうちだろう。
榛原家では感じられる女性間の繋がりが、「さらに上のランクの」青木家では薄まっていくのは印象的だし、その環境で育った幸一郎があのように振舞うのも無理のないことだなと思えてしまう。

華子にしても幸一郎にしても、恵まれていながらどこかで無理をしているようだった。そういう二人が美紀という魅力的な女性に惹かれるのは「上から」というわけでもないだろう。階層が描かれているが、そこで対立は無く、それは経済的な理由でドロップアウトしてしまった美紀が、受け入れながら力強く進んでいく姿を見せてくれるからだ。
そしてそういう美紀に触れた華子もまた進んでいくという物語で、ホント素晴らしい。

あのラストではどうしても『燃ゆる女の肖像』のことを思い出させるが、そこで上手い変奏がなされた。これが良い余韻となっているように感じた。女性監督の系譜というのもまた素晴らしいことだなと思う。
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