ひろ

マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙のひろのレビュー・感想・評価

3.5
「マンマ・ミーア!」のフィリダ・ロイド監督とメリル・ストリープが再びタッグを組み、元英国首相マーガレット・サッチャーを描いた2011年のイギリス映画

第84回アカデミー賞で主演女優賞(メリル・ストリープ)とメイクアップ賞を受賞した

1979年、父の教えである質素倹約を掲げる保守党のマーガレット・サッチャー(メリル・ストリープ)が女性初のイギリス首相となる。“鉄の女”異名を取るサッチャーは、財政赤字を解決し、フォークランド紛争に勝利し、国民から絶大なる支持を得ていた。しかし、彼女には誰にも見せていない孤独な別の顔があった…。

11年もの長期政権を維持したイギリス初の女性首相マーガレット・サッチャー。ソ連に“鉄の女”と批判されたものの、その呼び方を本人も気に入っていたという。妻であり、母であり、首相だったサッチャー。そんな彼女も現在、認知症を患っているというニュースが流れ、そしてこの映画が製作された。

認知症である現在のサッチャーが過去を回想するという形式で物語は進んでいく。これにはサッチャーの側近だった人たちから批判の声があったという。確かに、存命の人物をこうやって描くのは、少し敬意が足りない気もする。

財政赤字を解消したサッチャーだが、そのために大量の失業者を出したこともあり、労働者階級には嫌われていたりする。左翼的な映画ではいつも悪く描かれているし、サッチャーという人物の立ち位置は、事情をよく知らない日本人には判断しかねる。

ただ、この人は信念の人だ。妻であり、母であることよりも国のことを優先した人だ。フォークランド紛争というイギリスの危機も描かれているが、その時のサッチャーの決断は誰もが認めるところだろう。フォークランド紛争も、日本では「紛争」という言葉になっているが、これは「戦争」であり、未だにアルゼンチンとイギリスの遺恨になっている。領土問題は日本にも他人事ではない。

そんなサッチャーを演じ、アカデミー賞主演女優賞を受賞したメリル・ストリープ。見た目からそっくりだが、これはメイクアップ賞を受賞したスタッフの力が大きい。演技を評価する時にポイントとなるのが、イギリス英語を使いこなせているかということと、いかにサッチャーになりきっているかだ。これは日本人には評価が難しいポイントだと思う。

英語の発音はよく分からないけど、メリル・ストリープはこれまでも、役によって英語の訛りを演じ分けていたというし、おそらくイギリス英語も使いこなしているのだろう。サッチャーの演技を評価するために、サッチャーの演説をいくつか観たが、これはすごい。物真似という領域を越えている。話し方がそっくりだ。3度目のオスカーは伊達じゃない。ただ、受賞スピーチで興奮しすぎたのか、肝心なサッチャー本人への感謝を言い忘れたから、これまた批判されてしまった。それは最初に言わないと。

メリル・ストリープの演技にばかり注目されがちだが、マーガレット・サッチャーの夫であるデニス・サッチャーを演じたオスカー俳優ジム・ブロードベントの演技も素晴らしかった。彼の存在が、“鉄の女”と言われた女性の妻としての姿を浮き彫りにしている。

イギリス現代史を知ることができるし、サッチャーという強い女性像は、強く生きようとする女性の励みになるかもしれない。家庭的な女性はサッチャーに共感できないだろうけど、それでも多くの女性が、サッチャーのように強く生きたいと思ったことがあるはずだ。メリル・ストリープの名演によるマーガレット・サッチャーの人生。闘い続けている女性にお薦めです。
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