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アウトポストのはるのレビュー・感想・評価

アウトポスト(2020年製作の映画)
4.0
今作は2006〜2009年の物語で、その当時であれば『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー(2007)』という作品が思い出される。そこではUSが1980年代に行ったアフガニスタンへの支援に奔走する主人公たちが描かれ、やがてソ連を撤退させることに成功するが、その余波として後のアルカイダやタリバンに繋がる流れができることも知ることになる。
あの前哨基地は「不朽の自由作戦」の一環として、パキスタンからタリバンへの武器供与を防ぐ狙いがあったようだがそれにしても酷い立地だ。作中でも語られたように軍の上層部と現場の兵士たちの感情は乖離していた。ある意味孤立していたような基地で、兵士たちは正気を保ち、現地の人々とも折り合っていこうと努める。非戦闘時の死亡事故や衛生面などでの劣悪な環境、いつ狙撃されるかわからない状況などは、日本のニュースで伺うことなどできない。アフガニスタンの人々にとってはソ連もUSも大差なく、ただの他所者であるが、それでも部隊の彼らは「対テロ」の大義の名の下に命を懸けている。そのために力を尽くす彼らの活躍と犠牲には心を動かされた。

やや意外な配役に感じたオーランド・ブルームはブレークする前に『ブラックホーク・ダウン』に出演していて、気付いていなかったので調べると端役だったのは予想通りだったが、あのブラックホークから落ちる兵士役だと知って「なるほど」なと思った。まさか「落ちる役」で繋がっているとは。
キーティング大尉が死亡したのは06年でまだ27歳だった(死亡時は中尉)という。大尉があのデカイ図体のトラックを邪魔に思っていたことは劇中でも示されたが、あの前哨基地に送り込めることを証明したがった上官のエゴによって彼は無駄死にしたようなものだ。

冒頭から兵士たちの名前が逐一表示されるが、さすがに追いつかないので大尉や軍曹など階級で呼ばれる人物たちの名前と顔が結びつかなくて困った。逆に名前で呼ばれるカーターやスクザたちの方が印象付けられていくのだけど、これは結果として良い方に作用していた。カーターは冒頭から天邪鬼な面を見せていたが、キーティングとともに危険な任務にも就いている。だからあの絶望的な戦いのなかでも良い意味で天邪鬼な振る舞いだったし、それは客観的に見ればヒロイックなものでもある。

2009年はブッシュからオバマに政権が移った年であり、おそらくそれまでのやり方を見直す契機にもなったタイミングだろう。その流れで撤退と基地破壊が持ち上がったのか。もし最初の計画通りに撤退していればこの戦闘はなかったことになる。
少し久しぶりに米軍が「アフガニスタンで何をやっていたか」を伺う作品を観たことで、『ゼロ・ダーク・サーティ』『ローン・サバイバー』といった過去作を思い出したし、前者はあらためて観てみると今作と類似する点がいくつかあると感じた。

また割り切ったようにアフガニスタン側の事情や苦悩はほぼ描かれない。しかし現地の女性が死んで「米軍のせいだ」として金銭を要求するなどの描写はあった。だがそれは「切り取り」と感じるし、アフガン侵攻あたりからの歴史をある程度踏まえていると気になる点ではある。ただしタリバンは国内で圧政をしいていたし、女性への極端な抑圧など社会への悪影響は計り知れない。あの場で米軍53名は約400人のタリバン勢力から攻撃を受け、勇敢に戦い、仲間を守り、犠牲者も多数出た。そういう事実を知ってどう感じるか、それが重要なのだと思う。
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