Dick

シュシュシュの娘のDickのネタバレレビュー・内容・結末

シュシュシュの娘(2021年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

1.はじめに:入江悠監督との相性

❶入江悠の長編が、名古屋で初めて公開されたのは、2009年の『SR サイタマノラッパー(2008)』で、それ以降、インディーズ・メジャー合わせ本作を含め12本が劇場公開されている。インディーズは全てCS(シネマスコーレ)で公開。ほぼ1年に1本のペースで順調と言える。
❷その全てをリアルタイムで観ているが、マイ評価は、最高の5点満点から最低の1点まであり、バラツキが大きい。全体の相性は「並」である。本作は「並の上」。

【長編】
①『シュシュシュの娘(2021)』監督製作脚本編集(88分)、初公開日: 2021/08/21/2021.08.24鑑賞/70点3A★★★☆(本作)
②『AI崩壊(2020)』監督脚本(131分)、初公開日: 2020/01/31/2020.02.07鑑賞/80点4A★★★★
③『ギャングース(2018)』監督脚本(120分)、初公開日: 2018/11/23/2018.1212鑑賞/80点4B★★★★
④『ビジランテ(2017)』監督脚本(125分)、初公開日: 2017/12/09/2017.12.11.鑑賞/50点 2B★★☆
⑤『22年目の告白-私が殺人犯です-(2017)』監督脚本(117分)、初公開日: 2017/06/10/2017.06.14鑑賞/100点4B〇★★★★★(マイベスト)
⑥『太陽(2015)』監督脚本(129分)、2016/04/23/2016.04.29鑑賞/20点1B★(マイワースト)
⑦『ジョーカー・ゲーム(2014)』監督(107分)、2015/01/31/2015.02.05鑑賞/50点3A★★☆
⑧『日々ロック(2014)』監督脚本(110分)、初公開日: 2014/11/22/2014.11.26鑑賞/40点2B★★
⑨『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者(2012)』監督プロデューサー脚本編集(分)、初公開日: 2012/04/14/2012.05.07鑑賞/85点4B○★★★★
⑩『劇場版 神聖かまってちゃん/ロックンロールは鳴り止まないっ(2011)』監督プロデューサー脚本編集(89分)、初公開日: 2011/04/02/2011.05.06鑑賞/70点3B★★★☆
⑪『SR サイタマノラッパー2 ~女子ラッパー☆傷だらけのライム~(2010)』監督製作プロデューサー脚本(95分)、初公開日: 2010/06/26/2010.07.07鑑賞/85点4B○★★★★
⑫『SR サイタマノラッパー(2008)』監督脚本(80分)、初公開日: 2009/03/14/2009.08.29鑑賞/70点3B★★★☆
【名古屋未公開】
『ジャポニカ・ウイルス2006』監督プロデュース脚本(94分)、初公開日: 2006/09/30/■名古屋未公開

2.マイレビュー:◆◆◆ネタバレ注意

●作品概要(出典:公式サイト)
2020年、コロナ禍で全国のミニシアターが苦境に立たされた。映画の撮影現場もストップし、多くのスタッフや俳優が路頭に迷った。そんななか、ひとりの映画監督が立ちあがった。「だったら、自主映画をやればいい。完成させて全国のミニシアターを回ろう」。今もっともアツい映画監督、入江悠が立ちあげたのが、『SRサイタマノラッパー』シリーズ以来10年ぶりとなる自主映画の本作。入江は3つの夢を掲げた。
①仕事を失ったスタッフ、俳優と、商業映画では製作しえない映画を作ること。
②未来を担う若い学生達と、あらたな日本映画の作り方を模索すること。
③苦境にある全国各地のミニシアターで公開すること。
本作は監督みずから出資し、その夢に賛同したクラウドファンディングの支援金のみで製作。スタッフ・キャストも、監督自身がSNSで募集した。2,500名を超える応募のなかから、3次選考までを経て、福田沙紀、吉岡睦雄、根矢涼香ら出演キャストが選ばれた。スタッフには、NYで活動していたがコロナ禍で帰国できなくなった石垣求(撮影)や仕事を失った者たち、大学が休校になり行き場を失った大学生らがつどった。「今年作られる映画・ドラマの中でもっとも食事が充実した撮影にしよう。食事と休息をしっかりとって、コロナに負けない現場へ」入江のかけ声のもと、『シュシュシュの娘』は「CMの撮影よりも食事が豪華」(撮影助手)という近年では珍しい自主映画の現場になった。未曾有のウイルスと自粛の風潮のなか、まったく新しい映画がいま誕生。世の中は息苦しく、もやもやした空気が立ちこめている。本作の主人公・鴉丸未宇(からすま・みう)もそんな街に生きている。移民排斥、改ざん、不寛容。日本のメジャー映画はこれらの問題から目を背けて久しい。でも、まだやれることがある――2020年の夏に集結した映画人と学生たちの思いをのせて、いま『シュシュシュの娘』が世に放たれる。華麗に軽やかに、蝶のように舞い、蜂のように刺すよ。さあ、全国のミニシアターへ。

❶相性:上。
★この大変な時期に、本作を世に出した、入江悠監督以下のスタッフ・キャストに敬意を表したい。
★社会的テーマには大賛成。映画としては、もうちょい。

➋時は、現代。舞台は、関東の架空の地方都市、「福谷市」。
★入江監督の故郷「深谷市」のもじりだろう。ロケ地は「深谷市」。登場する「福谷市」の市外局番「048」や、ナンバープレート「熊谷」は「深谷市」の番号である。

❸主な登場人物

①鴉丸未宇(からすま・みう)(福田 沙紀):主人公。市役所勤務の独身25歳。寝たきりの祖父の介護をしながらの2人住まい。
②鴉丸吾郎(宇野 祥平):未宇の祖父。かって新聞記者だったが、今は寝たきり。「移民排除条例」に反対。
③間野幸次(井浦 新):市役所勤務。家族を捨てた未宇の父の同級生で、曲がったことが嫌い。市役所で孤立している未宇を優しく支える。
④丹治紗枝子(根矢 涼香):不動産勤務。未宇の小中高の仲良し同級生。昼食は公園で未宇と一緒に食べる。
⑤司秋浩(吉岡 睦雄):酒屋の若大将。
⑥牟根田瞳(金谷 真由美):市役所の先輩。下記の佐川と男女の関係にある。
⑦佐川宣人(松澤 仁晶):市長秘書。
⑧小池宗介(三溝 浩二):市長。
⑨高峰三吉(仗 桐安):外国人労働者が多く働く産廃工場の社長。
⑩ダナン(安田 ユウ):外国人労働者。
⑪自警団員たち。

❹要旨

◆◆◆以下にネタバレがあります。本作はネタを知っても、鑑賞結果に影響しないと思われますが、不安な方は本項をスルーして下さい。


①福谷市役所勤務の独身25歳の鴉丸未宇(からすま・みう)は、寝たきりの祖父・吾郎の介護をしながらの2人住まい。朝の日課のダンスと、ちくわをおかずにした昼弁当を、近くの不動産会社に勤務する親友の紗枝子と一緒に食べるのが一番の楽しみ。
②福谷市では、市長が発案した「移民排除条例」の制定をめぐり、対立が深まっている。圧倒的多数の推進派は、「自警団」を組織して、反対派をつぶそうと躍起になっている。その為には、暴力や公文書改ざんも厭わない。
③元新聞記者だった吾郎は、反対派で、度々の脅迫にも屈しない信念の人である。彼の孫娘である未宇は、役所で嫌味を言われ、肩身の狭い思いをしている。
④役所内での味方は、家族を捨てた未宇の父と同級生だった、間野幸次ただ一人だけだった。
⑤そんな間野が、役所で飛び降り自殺する。
⑥吾郎と親交のあった間野は、前日に五郎を訪れ、自分が「文書改ざん」を強要され拒否出来なかったこと、密かに「強要現場の証拠動画」を撮り、秘密の場所に隠したことを伝える。
⑦正義の制裁を下すべきだと判断した吾郎は、未宇に鴉丸家の秘密を明かす。鴉丸家は忍者の家系で、「秘伝の書」が代々引き継がれてきた。ただ、残念ながら、その大半が、戦争中B25の空襲で焼けてしまった(笑)。そして、大切に保存してある、焼け残った「秘伝の書の一部」を未宇に手渡す。その上で、吾郎が未宇に、「重要なミッション」を言い渡す(笑)。
「仇をとるため、改ざん指⽰のデータを奪え」
★さあさあ、お立合い、お楽しみはこれからだ!(笑)。
⑧未宇は、「秘伝の書の一部」に従って、忍者の訓練を開始する。自宅での秘密のセルフトレーニングである(笑)。
ⓐまずは、衣装から(笑)。未宇は紗枝子を伴って反物屋に行き、黒の生地を買う。それを自分で忍者衣装に仕立てる。
ⓑ次は体力。「秘伝の書の一部」には忍者踊りが記載されていた!(笑)。
★それを踊る未宇の姿が愉快なり(大笑)。
ⓒそして、待望の秘法とは「吹き矢」だった(笑)。矢は手作り、筒はちくわである(笑)。
★タイトルの「シュシュシュ」とは吹き矢のことだった。
ⓓ未宇は何度も練習するが、まともに当たらないので、途中で見切り発車(笑)。
⑨未宇は、忍者衣装に身を固め(笑)、間野の自宅に向かうが、未宇が着いた時と、役所の先輩・牟根田が証拠のUSBを持ち去る時が同時だった。
★秘密の場所なのに簡単に分かったのだね(笑)。
⑩未宇が、牟根田の後を追うと、牟根田は、マイカーの中で、市長秘書の佐川と情事の真っ最中。未宇は秘法の「吹き矢」でタイヤを狙うが、全く当たらない(笑)。その時、突然、黒装束の男が現れて(笑)、未宇の吹き矢を奪い、タイヤに見事に命中させる。驚く牟根田と佐川。その間隙を縫って未宇がUSBを盗みだす。
★でかした!未宇(笑)。
⑪そのUSBはパスワードがないと開けないようになっていた。未宇は心当たりの場所に行く。そこは、多くの外国人労働者が働く産廃工場だった。社長が条例に反対しており、生前の間野が、支援のため、よく訪れていたのだった。社長と面識のない未宇は追い返されるが、外国人労働者の一人が、間野さんから預かっていると、パスワードが書かれたメモを渡してくれた。
⑫こうしてようやく開いた動画には、間野に改ざんを命令する上司たちの様子がばっちり記録されていた。
★これで一件落着かと思ったら、大間違い。お楽しみは、まだまだ続きます(笑)。
⑬吾郎はこの動画をクラウドに保存し、知り合いの記者に見せると言う。
★以外なことに、吾郎は、役所で毎日PCを扱っている未宇よりも遥かにデジタルに強いのだ。
⑭未宇は、最近付き合い始めた酒屋の若大将・司とデートして、帰宅すると、家の中が荒らされ、吾郎が血まみれになっている。玄関には「非国民」の張り紙。そして証拠のUSBも奪われていた。明らかに「自警団」の仕業である。「自警団」は他にも産廃工場も襲っていた。
⑮未宇は、救急車で吾郎を病院に運び、警察に届けるが、市長に与する警察は動いてくれない。かくなる上は自分でやるしかない(笑)。未宇は、そう決心した。
⑯間もなく吾郎が亡くなる。RIP。
★さあさあ、お待ちかねの弔い合戦の始まり、はじまーり(笑)。
⑰未宇は、役所を退職し、復讐のための本格的な準備を開始する。
ⓐ山で、毒キノコや毒草を採取する。それを基に、矢先に塗る毒液を作る。
★多分「秘伝の書の一部」に従うものだろう。
ⓑそして、沢山の矢を作る。上記⑧よりも精密なものである。その全てに毒液を塗る。
ⓒそして、吹き矢の練習をして、百発百中の腕前になる。
★さあ、準備完了だ!。
⑱夜の料亭では、市長以下の幹部や自警団のメンバーたちが、「移民排除条例」の制定を祝う宴がたけなわだった。「移民ゼロ、日本人ファーストの町になった」と浮かれている。そこに、例の忍者衣装を装った未宇が現れ、一人ずつ吹き矢で「シュシュシュ」と倒していく。皆のスマホには、証拠の動画が配信されていた。それは、生前の吾郎が仕組んだものだった。命乞いをした市長も、最後に倒される。
★正義が勝利したのである。めでたしめでたし。
★映画一巻の終わりでございます。お楽しみ様でした(笑)。
★ところがどっこい、まだおまけがあった。
⑲復讐をなし終えて、帰る未宇の前に、上記⑩で登場した黒装束の男が立ちはだかる。彼こそは、司であり、市長の腹心だったのである。
★アッと驚く為五郎!(古い!、今では知っている人など殆どいない!)(笑)。
⑳でも、今の未宇に勝てる人は何処にもいない。かくして、悪は一掃されたのである。
★色々ありましたが、今度こそ、一巻の終わりでございます。お楽しみ様でした(笑)。


❺まとめ
①安部政権時代の「モリ・カケ・桜」問題における「公文書改ざん」、「職員自殺」、菅政権時代の名古屋入管での「スリランカ人元留学生の死亡」等々、権力により、葬られようとしている実際の事件がモデルになっている。
②これ等直近の問題を、タイムリーに、コメディとして、ユーモアたっぷりに描いたことを評価したい。
③そして何よりも、コロナ禍で大変な時期に、本作を世に出した、入江悠監督以下のスタッフ・キャストの意気込みと努力に敬意を表したい。
④エンドロールの最後にある、入江監督のメッセージのように、本作が、全国のミニシアターの支援となることを願うものである。
「新型コロナウイルスで苦境に追い込まれた全国のミニシアターへ」
⑤映画としては、寝たきり老人のトイレや入浴問題はじめ、突っ込み所が沢山あるが、そんなことは些細であり、マイナスにはならない。
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