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青春ジャック止められるか、俺たちを2のDickのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

●解説(出典:公式サイト):
映画を武器に激動の時代を走り抜ける若者たちを描いた『止められるか、俺たちを』から 10 年後。 1980 年代。時代も人も変わった。シラケ世代と言われ、熱くなることがカッコ悪いと思われていた時代。ビデオが普及し始め、映画館から人々の足が遠のき始めた時代。それに逆行するように、若松孝二(1936-2012)は名古屋にミニシアターを作る。その名はシネマスコーレ。ラテン語で「映画の学校」。支配人に抜擢されたのは、結婚を機に東京の文芸坐を辞め、「これからはビデオの時代」と地元名古屋でビデオカメラのセールスマンをやっていた木全純治(1948-)だった。木全は若松に振り回されながらも、持ち前の明るさで経済的危機を乗り越えていく。 そこに吸い寄せられる若者たち。まだ女性監督のほとんどいなかった時代。金本法子は「自分には撮りたいものなんか何もない」と言いながら、映画から離れられない。田舎の映画青年だった井上淳一もまた映画監督になりたい一心で若松プロの門を叩く。己れの才能のなさを嫌でも自覚させられる日々。それでも、映画を諦め切れない。救いは、木全が度々口にする「これから、これから」という言葉。 今がダメでも次がある。涙だけじゃない。そこには笑いがある。絶望だけじゃない。希望がある。この映画は僕の、私の物語であると同時に、あなたの物語でもある。これはあなたの青春の物語だ。若松孝二を演じるのは、前作に引き続き井浦 新。若松の役年齢と井浦の実年齢が重なり、ヤンチャさに温かな包容力が加わり、さらにパワーアップ。木全純治は、このところ新境地を開拓し続ける東出昌大。掴みどころのない茫洋とした人物を見事に演じている。金本法子には芋生 悠、井上淳一には杉田雷麟。ともに自意識と自信のなさで揺れ動く青春期の感情を繊細に演じ、魅力全開。他にも、コムアイ、有森也実、田中要次、田口トモロヲ、門脇 麦、田中麗奈、竹中直人など豪華キャストが集結。あの時代の空気を見事に体現している。監督は前作では脚本の井上淳一。『REVOLUTION+1』『福田村事件』などの脚本作品とは打って変わり、思いっきり笑えて泣ける青春映画を作り上げた。自由なようでいて不自由な今、この映画は時代を超えた応援歌だ。

❶相性:上。

❷時代:1982年12月の名古屋から幕が開き、シネマスコーレがオープンした1983年から1984年、1985年、1986年と続き、最後は2012年12月のシネマスコーレに於ける若松孝二追悼上映会「追悼を越えて これが若松だ!」(2012/12/8~2013/1/4)で幕を閉じる。

❸舞台:名古屋:シネマスコーレ、東京:若松プロ。

❹パート1について
①パート1に当たる『止められるか、俺たちを(2018)』(監督:白石和彌43歳、脚本:井上淳一52歳)は、1965年に誕生した若松プロの、1969年3月から1971年9月までの2年半を描いている。それは、門脇麦が演じた吉積(よしづみ)めぐみが若松プロに在籍していた期間である。
②人物全員が実名で登場するが皆若い。主人公の吉積めぐみが21歳、大将の若松孝二が33歳、足立正生が30歳、荒井晴彦が22歳、等々。
③彼等の型破りではあるが、エネルギッシュでダイナミックで創造的な行動力は凄かった。
④全体としては、初期の若松プロと関係する人達の動向が良く分かり、好奇心が満たされた。
⑤ラストに「この映画を 我らが師・若松孝二と この時代を駆けた人々に捧げる」との字幕が出る。この瞬間、「白石和彌、よくやった!」と思った。
⑥若松孝二を演じた井浦新は、地声を殺して、メイクも若松に似せていて、努力していることは認めるが、生身の若松孝二を知る者としては、若干抵抗があった。

❺本作(パート2)について
①本作は、パート1から11年後の1982年12月から幕が開き、シネマスコーレがオープンした1983年からの4年間をメインとして、最後は2012年12月のシネマスコーレに於ける若松孝二追悼上映会で幕を閉じる。
②公式パンフの井上監督の対談によると、パート1同様、登場人物は実名だが、唯一、女性監督志望の金本法子(かねもと・のりこ、21歳)だけがフィクションになっている。
③小生がシネマスコーレの会員(注1)になったのが1998年、スコーレ映画サロン(注2)に出席するようになったのが1999年。それ以降は、若松監督や木全支配人と、記念パーティや忘年会等を通じてフェース・ツー・フェースで接する機会が増えたが、それ以前は、新聞や書籍等のメディアで断片的に読む程度だった。

(注1)会員制度
シネマスコーレでは、鑑賞料金が割引されたり、シネマスコーレが主催するイベントに参加出来る「会員制度」があり、現在も継続している。
(注2)スコーレ映画サロン
1987年に発足したシネマスコーレ会員の有志による合評会。毎月1回集まり、課題映画2本につき4時間で批評し合っている。

④だから、本作のメイン舞台となった1983年からの4年間はリアルタイムとしては縁がない。
⑤しかし、幾つかのアーカーブが残されていて、概要を知ることが出来る。
★木全支配人、シネマスコーレスタッフのTさん、コーレ映画サロン代表のKさん他の尽力の賜物である。
ⓐ「シネマスコーレの15年:銀幕は波乱万丈(1998/2)」
★シネマスコーレ誕生の詳細が記されている。
ⓑ「シネマスコーレ30年史:燃えよ!インディーズ(2013/4)」
ⓒ「シネマスコーレ40年史:燃えよ!インディーズ2(2023/2)」

❻考察1:シネマスコーレ秘話
①本作のメインであるシネマスコーレ誕生物語は、ほぼアーカイブ通りで、アーカイブに誇張がないことが確認出来た。
②低予算なのに時代考証がしっかりしていて、説得力があった。

❼考察2:若者たちの映画監督修行
①監督志望の井上淳一(17-21歳)や金本法子(かねもと・のりこ、21-25歳)が現場で叱られ、扱かれ、成長していく過程に納得。

❽考察4:河合塾のPR映画『燃えろ青春の1年(1986)』
①本作では、当時20歳の井上淳一が河合塾のPR映画を監督する実話が見所の一つになっている。
②90分の35㎜版で、予算の900万円は全額河合塾が出資した。
③監督は、若松孝二の意向で、河合塾OBの井上淳一が務めることになった。プロデューサーは木全支配人であった。
★本作で描かれたように、本番では井上では歯が立たず、立ち会った若松から怒られてばかり。クレジットは井上となっているが、実質は若松作品だった。
④この作品は、1986年春、愛知県体育館で行われた河合塾の入塾式で上映されただけで、その後はお蔵入りとなった。一般にも非公開である。
★本作の公式パンフにその理由が記されていた⇒理事長の気に入らなかったためだった。
⑤小生は、この幻のPR映画を、ある経緯で、2023年の6月に観ることが出来た。オリジナルの35㎜ではなく電子データをプロジェクターで上映したもの。
ⓐストーリーは、主人公の女子塾生が、ハイスコアの偏差値で特別プログラムに抜擢されるが、それがコンピュターの判定ミスと分かり、中止となる。主人公は一念発起して勉強と肉体トレーニングに励んだ結果、見事合格するまでをユーモアたっぷりに描いたもの。
ⓑ出演者は、女子塾生に美加理、講師に河合塾の実在の名物講師・牧野剛(まきの・つよし)氏、他に竹中直人と赤塚不二夫が加わる豪華な顔ぶれ。
ⓒ商業映画として恥ずかしくない出来栄えになっている。
★本作には、成田浬(なりた・かいり)演じる牧野講師が、ビール缶が山積みされた教壇で、ビールを飲みながら講義するシーンがあり驚いたが、実話らしい(笑)。
★2021年に公開された『アナザーラウンド(2020丁抹)』を連想した。

➒考察2:俳優の演技
①パート1に続いて若松監督を演じた井浦新は、当時の若松監督と同年代で、2作目としての馴染みもあり、すっかり板についている。ソフトでまろやかな井浦の地声を、若松監督独特のイントネーションとどら声に代えているのは天晴れなり。トレードマークのサングラスをかけると、若松孝二が帰ってきたようだ。
②木全支配人役の東出昌大もモノマネ大賞に値する出来栄え。やや猫背で歩き、身振り手振りを交えた振る舞いの木全さんのイメージを見事に具現している。20㎝近い身長差が気にならない。

❿考察5:会食
本作には皆が一緒に飲み食いするシーンが一杯あって羨ましかった(笑)。
★「飲みにケーション」は世界共通なり。

⓫考察6:若松孝二追悼上映会
①本作のラストのクライマックスは、2012年12月のシネマスコーレに於ける若松孝二追悼上映会。
★小生もリアルタイムで観ている。
②上映が終わり、ゲストの井浦と大西信満(本人)が挨拶する。それを木全が見ている。その隣に、ゴーストの若松が現れる。仲良く並んだ若松と木全。
★胸が熱くなった。本作で一番好きなシーンだ。

⓬まとめ
一番愛着のある実在の映画館「シネマスコーレ」に関わるものであり、主な登場人物たちとも馴染みがあるので、自分史を見ているようで、心に刻み込まれた。
その分、甘い評価になっていることをご容赦頂きたい。
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