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Minnie the Moocher(原題)のTnTのレビュー・感想・評価

Minnie the Moocher(原題)(1932年製作の映画)
4.5
 最高!フライシャー作品は怪奇表現に容赦ない。同時期のミッキーマウス作品と比べると断然こっちの方が好き。
 
 キャブ・キャロウェイの歌を知るきっかけにもなった作品。今作で知ったからか、なんだかんだMinnie the Moocherのベストアクトは他の音源より今作なんじゃ?と思わせるものがある。丁寧に彼らの演奏風景も映し出され、それを指揮するキャロウェイの独特な動きはロトスコープでトレースされ、セイウチのお化けに活かされることになる。

 ベティの悲惨な家。父母は当たりが強い、そしてベティの周りの花とか置物がベティの味方についてくるの愛おしい。それって「パンズラビリンス」みたいで、現実逃避としての正しい表現っぽいからちょっと胸痛い。しかし、そんな今作は外の世界を恐れて家に逃げ帰り、「home sweet home」の字で終わるという。のちの「オズの魔法使い」の「やっぱり我が家が一番」みたいなのの先取り。しかし、あの狂っておかしな世界より厳しい現実の”家”に両者とも戻るのは何故だろう(なんかの本で誰かが「オズの魔法使い」でこんなこと言ってたけどもう忘れた)。

 お化けの世界の死の概念のあべこべさ。ガイコツから幽霊が出てきたり、死刑囚の霊が檻に閉じ込められてるけど、霊だから抜け出せるし、死んで尚電気椅子で処刑されるを繰り返して、でも霊だからピンピンしてて。なんか楽しそうなんだよなー。「コープスブライド」とかも、現世より確実に死後の世界の方が彩り豊かなんだよね。てか、なんでセイウチのお化けなんだよ!「不思議の国のアリス」のセイウチが出典なのだろうか(どっちも悪いやつだし)。フライシャー作品は、安全地帯を抜けたり地下に行くとすぐそこには見知らぬ闇が広がってるという世界観が多く、アメリカ人の抱える何か根源的な不安が顕在化してると受け取れそうだ(借り物の土地だからね)。それは、最終的に移民以外の普遍的な人の根源的不安でもあり、それが魅力となっている部分もあるだろう。
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