はる

私をくいとめてのはるのレビュー・感想・評価

私をくいとめて(2020年製作の映画)
4.7
公開直後に観て、再度観ることを決めていた。一度めではとにかく主演ののん(能年玲奈)に注目していたが、そういう態度の観客にとっては最高の作品になったと思う。
かなりの部分で一人称で進んでいく今作は、彼女のアップが多用されていて、多彩な表情、表現で主人公みつ子の心象を描写している。ここ数年の彼女のキャリアを思えば、ブランクを埋めてくれているようでもある。今作は大九明子監督のもと、撮影も女性で何と言っても原作は綿矢りさである。こうした重層的な女性の視線、視点によって映し出されるのんを観ることは今まで無かったことだ。そして実際に素晴らしい作品になった。

ネタバレになるが、冒頭のショットが青空で飛行機が横切っていって「なるほど」となるのは2回目からだろう。そして食品サンプル(つまり偽物)を作りながら脳内で「相談役のA」とやりとりをしている、という導入が良いなと思う。みつ子の状況がうかがえるし、その後の食事のシーンも楽しいものだ。

今作では一人の時のみつ子も良いのだけど、共演者とのアンサンブルでも色んな状況があり、臼田あさ美とは会社員としての表情、林遣都とはいち独身女性として、そして橋本愛とはかつての親友(ここはあえて「かつて」としたい)として。特筆されるのは橋本愛との共演だが、話題性よりも必然を感じる仕上がりだ。皐月との関係性の変化からAが作り出されたので、彼女とのローマでの再会はみつ子にとって重要なものである。Aはみつ子にとっての皐月的な視点が反映されているだろう。

この二人の演者は7年ぶりに会うということで、要するに『あまちゃん』以来だ。しかもあのわだかまりが解けていくシーンが最初の撮影だったというから素晴らしい仕掛けだ。それであのようになるのか!という驚きと感動があった。そして帰国後の初出勤時には澤田こと片桐はいりと並んで歩く。これもグッとくる流れだ。
ちなみにローマ繋がりで言うと、冒頭の飛行機が空を横切っていくショットは『ROMA/ローマ』で印象的だったラストと近いものだなあと思ったり。

ローマでの皐月には現状のコロナ禍を感じさせる描写を託された。みつ子も帰宅すればうがいをするし、そこは2020年に撮影されたことの意義を感じさせる。築地の今を映し込む判断も素晴らしい。

ホーミーの使われ方も考えさせる。みつ子にホーミーが聞こえる時というのがどういう時なのか、については2回目で何となく気付くことになる。だからあのラストがみつ子にとって最後のホーミーになったかな。

いやあキリがない。年末にまず観て、そして年明けに2回目を観るというのは今作の鑑賞に相応しいものになった。現実ではみつ子たちが沖縄に行くことはしばらく難しくなったが、あの時間軸の素晴らしいラストからの二人の成り行きを想像してみることにしよう。
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