はる

ノマドランドのはるのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.3
数年前ならアカデミー賞授賞式の後で観る(日本公開される)作品だったと思う。でも『ミナリ』にしても今作にしても最近では授賞式の前に観ることができるし、先入観無しで観るからこその感動が得られる。
今作を観る直前に『ハスラーズ』をCSで観ていたので「これもまた2008年以降のUSの物語」なのだなと思った。だからあの当時をUSで体験していた人たちにとってはこの作品の見え方も変わるだろう。まさに一変したのだし、その背景のことをわかっていなくても、あの“ノマド”の人たちがそれぞれ抱えている「何か」は感じ取ることができるようになっている。今作は2011年後半から2013年初頭までを描いているということだ。

あのヴァン生活を続けている彼らは、そのスタイルを選択しているようにも見える。今作の魅力はその視点と北米大陸の雄大な自然の描写が繋がっているところだろう。ただの消極的な動機でなく、その生活の先にある良さもあるのだと思わせてくれる。それを悲しい工夫や誤魔化しだとしたくないくらいにあの映像は壮大で美しく、激しかった。

また、ファーンと触れ合う“ノマド”の彼らの魅力的で、デヴィッド・ストラザーン以外が本人役であったとクレジットで知ったときは驚いた。ボブはそうだろうと思ったけど、リンダ・メイもスワンキーもそうだったのは本当に凄い。予算の都合もあったそうだが、彼らはフランシス・マクドーマンドのことを知らなかったという逸話もある。つまりオスカー女優として彼女と接していないことも手伝っているが、それ以上にフランシスの佇まいが彼らとの絶妙な距離感を作り上げたのだと思える。

あのデイヴをデヴィッド・ストラザーンが演じていることも上手いなと思う。彼は帰る場所がある人であって他の人とは違うのだ。彼の実際が描かれて、そこでのファーンの振る舞いがせつなくて力強くもある。彼女の心の動きをはっきりと知る手立ては無いが、その向かう先には彼女が選んだものがある。

対象となっている事柄とこの作品のルックは随分異なっていると思う。ユニークな作品だ。USの歴史を思えば、先住民から土地を奪った白人が、とうとう自分たちも移動する生活をするようになったとも言える。そういう皮肉も感じられて、少し『ミナリ』とも繋がっているように思えた。人の為すことと圧倒的な自然の対比などはUSの映画らしいものとも言える。またクロエ・ジャオのキャリアを思えば、先住民と白人の関係性はあながち的外れでもないのかと。
そしてこれもまた「アジア系の作家が描いたUSの物語」ということで、同時多発的にそうした作品が出るのも映画の面白いところだ。
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