umisodachi

ニューオーダーのumisodachiのレビュー・感想・評価

ニューオーダー(2020年製作の映画)
4.1
メキシコ映画。とある豪邸で結婚式が開かれようとしていた。幸せそうなカップルに、次々にやってくる富豪たち。周辺では格差に抗議した暴動が起きていたが、まるで別世界のようだ。すると、かつての使用人が妻の手術代の無心にやってくる。花嫁マリアンの母は少しの金を渡して追い払おうとするがマリアンは放っておけず、クレジットカードを持って邸宅を出る。マリアンが不在にしている間に、とんでもないことが起き……!

きっつー。最初から最後までずー-------っとキツい。夢のように豪華な披露宴のシーンの時点でどこか不穏だし、事態が急変してからは怒涛の地獄が続く。直接的でセンセーショナルなグロ映像が多いわけではなく、淡々と平常のテンポで描かれていくのだ。地獄が日常になっていく。

あっという間に大量に人が死に、しかも何が起きているのか飲み込めない。他の富豪たちと離れて行動していたマリアンにとっては何が何だかまったくわからないという状況であり、どの行動が正しくて間違っているのか判断のしようがない。1秒後に自分を待ち受けるものが何だかさっぱりわからないという恐怖。しかし、まちがいなく待っているのは最悪なことだという確信。怖い。怖すぎる。

暴動が激化してからは、軍による戒厳令。通信も遮断されて家に閉じ込められる人々。政府の中枢や豪邸の中ではまるで違う空気が流れているのも恐ろしい。格差に抗議して始まったはずの暴動が、さらなる断絶を生み出す。誰かから奪った権力は、また誰かのものになる。終わらない格差。どこまでいっても狂っている秩序。何度蓋を開けてみても、さらに蓋が出てくるような絶望感。描写自体も地獄ならば、描かれている世界の構造そのものも地獄だ。

本作では色が重要な意味を持つ。特に目立つのは緑。緑が画面に登場するたびにギクッとするほど、恐ろしいものの象徴として描かれる鮮やかなグリーン。メキシコ国旗の中の色であり、地球の緑の色でもある。繰り広げられる格差によるディストピアを絵空事だとは誰も言えないだろう。クレイジーな映画だが、そこには紛れもなく”いま”が凝縮されているのだから。
umisodachi

umisodachi