誰もいない夜のルーヴル美術館でダヴィンチを巡る観光案内。
これはたまらない。
浅学にして芸術に対しての理解が浅いのだが、ルネッサンス芸術という物に強く惹かれている。
古代ギリシア文化を取り戻すことによって、キリスト教の文脈に肉体性や刹那性を取り戻すという、肉体と精神の両面から物を見ようとするのがルネサンスというものであったと思う。
つまり、人間という存在に錨を下ろしながら神を捕まえようとする。
これがなかなかふてぶてしくて、何よりどこまでも好奇心に誠実なところにむむむ、と心惹かれてしまう。
そしてダヴィンチという人は本当にルネッサンスというものの粋なのだなと本作を見て改めて思った。
人間の輪郭を捉えるために万学に通じ、絵画を受肉させるために表情を与える。
作中で案内をしてくれている方はこう語る
「ダヴィンチは万学の天才と呼ばれていますが、広く浅い才能を絵を描くために使っていたのだと思います」(多分ちょっと違う)
ダヴィンチは絵画を絵画以上のものたらしめるべく、世の理の全てを知ることを欲した。
そして実際に僕がルーヴル美術館でみた彼の作品は、確実に画を超えた何かだった。
その筆は確実に肉体を捉え、その洞察眼は肖像画に精神を宿すことを可能にしていた。
まるで自分の中の全てを見透かされたような気持ちで呆然とそれを眺めていた。
あの時、理解不能だったダヴィンチという男を少し紐解けたような気がした良い作品だった。