Tラモーン

ベイビー・ブローカーのTラモーンのレビュー・感想・評価

ベイビー・ブローカー(2022年製作の映画)
4.6
今年最後はこれと決めてました!


釜山でクリーニング店を営むサンヒョン(ソン・ガンホ)は教会の養護施設で働くドンス(カン・ドンウォン)とともに、養護施設に設置された赤ちゃんポストへ預けられた乳児を密かに横流しして利益を得ていた。ある夜、1人の女性がポストの前に赤子を置いて立ち去る。人身売買斡旋疑惑で教会を張り込んでいた警察のスジン(ペ・ドゥナ)は不憫に思いながら赤子を拾いポストに預け入れる。赤子はサンヒョンたちの手に渡ったが、翌日母親であるソヨン(イ・ジウン)が思い直し教会へ戻ってきたため、サンヒョンたちは赤子を連れ去ったことを白状し「養父母を探そうとした」と言い訳をする。そんな成り行きからサンヒョン、ドンス、ソヨンと赤子のウソンによる養父母探しと、そして彼らを追う警察のスジンの旅が始まる。


めちゃくちゃ良かった〜!
映画館で観られなかったけど、今年最後に取っておいてよかった。素晴らしい作品だった。

冒頭、土砂降りの雨の中ソヨンがウソンを赤ちゃんポストには入れず、ポストの手前に置いて立ち去ってしまう。それを張り込んでいたスジンが拾ってポストの中にしまうんだけど、もうここからスジンが泣いてんだよ。

"捨てるなら産むなよ"

もちろんその通りなんだけど、我が子を置き去りにしたソヨンもとても思い詰めた表情をしていて、やむに止まれない事情があったことを想像させる。

赤ちゃんブローカーをしているサンヒョンとドンスは慣れた手つきでウソンの世話をし、売買の準備を進めるが決して悪びれた様子はなく表情は明るい。

"そもそもあんな箱つくるから母親が無責任になる"

この映画はとても重たいテーマだし、倫理観的に何が正解なのかは結局それぞれで考えるしかないんだけど、それとは裏腹に画面に暗さがないというか、旅の風景がとても綺麗なんだよな。
赤ちゃんブローカーと赤ちゃんの母親、そして赤ちゃんという歪な4人がワンボックスカーに乗り込み養父母を探す。決して明るい内容ではないのに、青空と綺麗な海、そしてソン・ガンホの楽天的な演技で不思議と嫌な空気感は流れない。

"とっとと失せろクズ野郎!"

最初に売買交渉をした夫婦に、ウソンの容姿にイチャモンをつけられ啖呵を切るソヨン。赤ちゃんを好きで手離すわけではない、せめて優しい両親に引き取られて欲しいと願う母親としての気持ちが垣間見える。

途中立ち寄った養護施設のヘジンを加えて5人となって一行はさながら家族にしか見えなかった。
それぞれが抱える人生を否定された悲しみ。その痛みをわかるもの同士、血の繋がり以上の何かが生まれていたのかもしれない。
洗車機のシーンの笑顔も、風邪をひいたウソンを心配するシーンも、血が繋がってなくちゃ家族じゃないのか?なんて気持ちになってくる。

ようやく安心してウソンを託せそうな素敵な夫婦との出会いのシーン。死産で実子を失った奥さんがウソンに授乳をするところでめちゃくちゃに泣いた。この夫婦にも深い悲しみがあったろうに、それを乗り越えて見知らぬ赤ちゃんを引き取り無償の愛情を注ごうとしている。それを見つめるソヨンは何を思うのか。安心して我が子を託したい気持ちと、いよいよ我が子を手離す決意との間で揺れる表情は明るくはない。

"本当に迎えにくるつもりで?"
"わからない"

次第に明かされるソヨンの過去と、何故ウソンを捨てなければならなかったのか。取り返しのつかない罪を犯した自分から、ウソンの未来を守りたいと願うソヨン。自身の過去と重ねて、ソヨンにきつく当たっていたドンスも彼女との交流の中で次第に自身の存在価値と母親への赦しを得ていく。

"普通はプロポーズの言葉だけど"
"そんな風にやり直せたらいいな"

ソヨンを自身の母親と重ねるドンスの言葉は彼女の救いになったのだろうか。

"代わりにソヨンを許すよ"

傍観の立場を決め込み、敢えて感情移入を避けていたスジンが本当は一番ソヨンの気持ちがわかってたのかもしれないな。彼女のブローカー摘発の執念が、ソヨンとウソンの幸せを願う気持ちに変わっていく様はぺ・ドゥナの名演技が光っていた。旦那さんに電話をかけるシーン、凄かった。

一度は家族との関係に失敗したサンヒョンは、この血の繋がらない5人の家族だけは絶対に守りたかったんだろう。ラストシーンは彼の視点だよね?泣かせるじゃん。


もう本当書ききれないくらいの名演技と、決してセリフが多くはないのにグサリとくる言葉に溢れていて、家族とか愛情ってなんなんだろうと思うととてもレビューが纏まらない。

是枝監督すげぇよ。『海町diarly』しか観てなくてゴメンなさい。あれも大好きだったけど、これ本当名作でした。
邦画的な間や表情で魅せる作風が、韓国キャストの名演技とここまで見事にマッチするとは。

ソン・ガンホもカン・ドンウォンもペ・ドゥナももちろん名演技なんだけど、ヘジン役の子も本当よかったよなぁ。"兄弟みたいだね"って笑うシーンめっちゃ泣けたもん。

それからイ・ジウン(IU)!
すっごく可愛いし、なんやねんあの演技力は…。不貞腐れた言葉とは裏腹な気持ちを感じさせる凄まじい名演技。
よく言われてるみたいだけど、存在感とか単純にルックスも松岡茉優に似てるよね。ちなみに個人的なことを言うと「松岡茉優に似てるうちの会社のデザイナーの子」にめちゃくちゃ似てて、もう本人かと思う角度あってびっくりした…笑。

改めて、2022年最後に素晴らしい名作に出会えて感謝です!


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2022年もなんとか200本越えの210本鑑賞/レビューとなりました!
今年もたくさんの名作に出会えたし、新しい相互フォローさんも増えて、もちろん以前からの相互フォローさんたちもありがとうございました。
TLから映画の世界が広がっていくし、皆さんのレビューが日々映画を鑑賞する刺激になっています。

来年も皆さんどうぞ宜しくお願いします。
今年もお世話になりました!🙇‍♂️
Tラモーン

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