Azuという名のブシェミ夫人

シングルマンのAzuという名のブシェミ夫人のレビュー・感想・評価

シングルマン(2009年製作の映画)
4.5
最愛の人を亡くして生きる意味を失っていた大学教授ジョージは、今日を人生最後の日とすることにした。
そんな『シングルマン』の一日の物語。

私は、この映画が好きだ。
作品として面白いかと言われると、そうではないのです。
だから人に薦めるつもりは無い。

私はスーツが似合う俳優に非常に弱く、そんな彼らが御用達なのが本作品の監督でデザイナーであるトム・フォードブランドのスーツやタキシード!
ちなみに今のジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)のスーツもトム・フォード。
本作の主人公ジョージ(コリン・ファース)の衣装はフォード自らデザインしたもので、やっぱりとても素敵です。

さて、主人公ジョージはゲイである。
他ならぬ監督トム・フォードもゲイだけれど、なんだかゲイの方たちって、“世界を視る力”が凄く研ぎ澄まされているなーと個人的にいつも感じる。
まだまだ世界的にマイノリティである故に、幼い頃から自分を深く見つめ考え、自分を取り囲む世界のことも良く観察してきた人が多いのではないだろうか。
だから、何と言うかこの世界の中で多くの人たちが見落としがちな、ありとあらゆる“美しさ”を逃さず捉える能力に凄く長けていると思う。
この映画がそういう“美”を徹底的に凝縮させているから、そこに私はどうにも惹かれてしまう。
その“美”は視覚的なものだけでなく、聞こえてくる音であったり、または人の孤独の哀しみから、それとは真逆の人の恋心の中から感じられたりするのです。

コリン・ファースの静かな哀しみと空虚さを感じさせる演技が心に染み入る。
回想シーンで見られる彼と亡くなった恋人ジム役マシュー・グードの間の繊細な空気感もまた素敵。
あんなガラス張りなお家絶対住めないけど、すんごいオシャレ。

ジョージが死を決めたというのに、まるで目に見えぬ何かが彼を引き留めるかのように魅惑の男性たちが彼の前に登場する。
スペイン人男性なんて、いかにもフェロモン大放出でちょっと笑える(ルーク・エヴァンズの彼氏なんだとか)
そして肝心要の人物ニコラス・ホルト君。
もう何たる小悪魔・・・恐ろしい子。
あんなにキラキラした子が寄ってきてくれたら生きる気力が湧いてくるけれど、きっと長く一緒に居るには眩しすぎたよね。
ジョージに必要なのは、瞬間の閃光なんかじゃない。
彼に寄り添うべき人はやっぱりジムだったんだよね。

でも一番切ないのはジュリアン・ムーアが演じるチャーリー。
たぶん彼女は今まで色んな男性と数多の恋愛をしてきたのだろうけど、いつだって彼女が一番に恋をしているのはジョージなんだろうね。

みんな表向きは一人じゃなくっても、自分は“ひとりぼっち”だって心のどこかで感じてるんだ。
それが切ない。