カルダモン

オクトパスの神秘: 海の賢者は語るのカルダモンのレビュー・感想・評価

4.3
タコにフォーカスしたドキュメンタリーと見せかけて、向こう側の世界に行ってしまったオジサンを見届けるドキュメンタリー。

仕事に疲れたオジサンが地元である南アフリカに戻り、海に潜る日々を過ごしていたある日、貝殻がたくさん張り付いた不思議な物体を発見する。しばらく眺めているとそれは吸盤に貝殻を貼り付けたタコであることがわかる。その光景に心を奪われたオジサンは毎日タコに逢うため、同じ場所に潜り続ける。

毎日通い詰めた結果、どうやらタコも毎日やってくる得体の知れないオジサンに興味を惹かれたようで、おそるおそるオジサンの差し伸べた手に触手を伸ばす。手と手が触れ合う瞬間はまるでETのワンシーンを観ているようで、もしかしたら本当にコミュニケーションが出来るかも、と思ってしまう。そんなタコとオジサンの未知との遭遇が、やがてラブストーリーへ発展していくという嘘みたいな冗談みたいなドキュメンタリー。


いつのまにかタコのことを『彼女』と呼び始めるあたりから様子がおかしいと思ったのだが、やっぱりどう見てもあれは恋してる目つき。ときおり差し込まれるインタビュー映像で見せる顔もどこか虚ろな感じで、とてもタコのことを語っているとは思えない。なんだかだんだん気の毒になってくる、そんな恋煩いの顔だった。まあ無理もない。オジサンのお腹の上に乗ってきたり、じゃれついたり、なんだかタコというよりもネコとかそんな感じに見えてくるのだから。彼女がいつもの場所に現れないと、狂ったように探し回ったり、触手を一本食べられてしまった時には看病したり、一歩引いた目で見ればどうかしているとしか言いようのない行動だった。

オジサンは映像作家でもあるため、潜りながら水中撮影を試みる。海の底にはコンブのような海藻が生い茂り、森のような世界が広がっている。様々な水中生物が作り出す幻想的な世界が美しい。そんな中でストーカー的にタコを追い回すオジサンは完全にヤバいやつなのだが、記録されている映像は彼とタコの距離感でなくては撮れないような映像の連続。タコの寿命はわずか一年。そこで育まれた一年足らずの恋愛物語。フィクションではなくドキュメンタリーという事実に改めて驚愕する。



余談
思わず頭に浮かんだのは、ゆらゆら帝国の『タコ物語』。この曲はタコ目線だけど🐙
https://youtu.be/qbkxCVNsFsY